まるで雪のように

 なぁ雪男、覚えてるか。お前が私に告白した時の話。にゃはは、あんときのお前は傑作だったよ。顔は真っ赤だったし、携帯のバイブかにゃー、ってくらい震えてたし。それで真剣な表情で付き合って下さいなんて言うから勢いで頷いちゃった私も馬鹿だけどさ。にしてもお前趣味悪いよ。十も年上の女なんてさ。まぁ私がナイスバディの綺麗なお姉さんなのがいけないんだろうけど。……引くなよ?
 そんでさ、付き合いたての頃喧嘩ばっかだったよなー。お前は些細な事に拘るし、私は大雑把だし。正反対っていうんじゃないの、もしかして。それでも楽しかった、本当に。獅郎が死んじゃってから色が消えたみたいにつまんなくなってたけど、お前と一緒でさ。あと、お前燐の事散々に言うけど話す内容が殆どそればっかなのに気づいてたかにゃー? もしかしてブラコン? ぶふふ。
 
 一通り笑って、ふと見ればちらほらと雪が降ってきていた。久しぶりの雪だ。珍しくセンチメンタルな自分を慰めて、冷たくなってきた手をこすり合わせた。寒い。
 用意していた酒を煽ると雪男が苦笑した気がして思わずくせで目を閉じる。雪男の小言を聞く時はいつも目を閉じるようにしていた。あんなに小さかった雪男が私より大きくなって、真剣な顔で怒るのが面白かったから、ついつい噴出しちゃうからさ。なんて言い訳を初めて口に出してみる。吐いた言葉は白くなって空に消えた。吸い込まれるように、十二月の空へ。鉛色の空から零れる純白の塊がゆらりゆらりと揺れる。


 そういえば雪とか、一緒に見た事なかった。

 緩んでいた頬に冷たい結晶が触れる。以前のように露出が高い格好はもう、しなくなった。自然とぶかぶかのコートを握り締めて、雪よりも冷たいそれに額をつける。ひんやりとした感触に思ったよりも胸が痛んで、がらにもなく泣きそうになる。いつか泣いていたのを見つけて叱ってくれた時の事、今だって思い出せる。それだけじゃなくて、忘れられない思い出がパズルのピースみたいに降り積もる。

「……お前の事、本当に好きだよ」

 冷たい冷たい墓石に向って喋りかければ、やっぱり返事なんか帰ってこなかった。形見だと燐から渡された団服はまるっきりサイズが合わなくて、隙間から入ってくる風が痛いくらいだ。ばらばらになってしまったピースを繋ぎ合わせてくれる人は、もう。

「言いたい事たくさんあったのに勝手に死にやがって。後で覚えてろよ、ビリー」

 お決まりの台詞すら帰ってこなくて。本当にいないのだと、改めて認識する。あの眼鏡の奥で笑っていた目も、下らないからかいに一々反応する子供っぽいところも。意外と高いプライドや、臆病者だと自分を卑下するくせに真っ先に自分を犠牲にするところすら。私はもう、見る事ができない。私だけでなく、世界中の誰も見る事ができないのだ。

 二人でやりたいことがたくさんあった。伝えたいことも、育てていきたい気持ちもたくさん。それなのに、ビリーのくせに、私を庇って死んじまいやがって。最期まで間抜けな奴。そう思ってるはずなのに、ここから動くことが出来ない。さよならと告げることも出来ずに一瞬で消えちゃいやがって、本当の本当にあほだ。燐を守るんじゃなかったのかよ。私を守って死んでんじゃねぇよ。
 

 雪と同じくらい、積もった心の欠片を拾えないまま、私は立ち上がった。最後まで零れなかった涙は、きっと枯れてしまっているのだと思った。



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