あなたが好きです

 付き合おうと告げてきたのはあっちからだった。正直、彼が自分の事を好いてるとは思えなくて、戸惑ったのを覚えている。内心では秘かに憧憬を募らせてはいたのだけれど、まさか向こうから告白してくるとは思ってなくて、というか、男って杜山しえみみたいなほわほわした可愛い子が好きなんじゃないの。なのに彼が自分を選んでくれた事が嬉しくて、でも素直に態度に表すのは悔しくて。どうしようもない自分の心を、彼は正面からぶつかってきてくれた。



「だから! えー加減にせぇっちゅうねん!」

「うっさいわよ! この馬鹿!」

 また、やってしまった。
 言い合いが始まると引っ込みがつかなくなってついつい言いたい事は全く違うことを口走ってしまう。馬鹿なのはこの私だ。いい加減こんな調子ではいつか愛想つかされてしまうんじゃないか。いいや、いつかだなんて曖昧な表現じゃなくて今回の喧嘩で愛想つかされてしまうんじゃないか。
 今回の喧嘩だって、始まりは些細なことだった。勝呂が、志摩や三輪とずっと話しこんでいて私に話しかけてくれないのが悲しくて。私が彼女なのに、私が一番に扱われないのが不満だとかいう子供みたいな馬鹿な考え。ほんと、馬っ鹿みたい。口癖みたいに使うようになったそれを自分に言い聞かせてみても反省しか出来ない。でもだって。勝呂が私と一緒にいる時よりも楽しそうで。でも甘えるなんて芸当、出来るわけない。

「あんたなんか知らないっていってんでしょ」

 止めの一言。ああもうどうしよう。お願いだから気づいて。自分から目を逸らしたくせに、勝呂から目を合わせて欲しいなんて考えてるどうしようもない私だけど。勝呂が嫌いなんじゃないの。好きなの。好きだから構って欲しいの。難しい事考えて子供みたいな大きい夢持ってるところがどうしようもなく惹かれるの。馬鹿な私を包みこんでくれる、面倒な性格でも笑って怒って最後には許してくれるあなたが大好き。一度決壊してしまった感情のダムみたいなものがボロボロと本心を落としていく。
 言葉に出来ない思いがふつふつと湧き上がってきて、でも申し訳なくて顔なんか見れないから俯く。

「……もうええわ。あほらし」

 ついに、怖がっていた言葉が吐かれてしまった。仕方ない。こんなめんどくさい性格だもの。仕方ないわよ。
 自分を納得させようとしても次々に涙が零れてくる。みっともないわよ、しっかりしなさい神木出雲。あんたはこれまで一人でやってきたじゃない。それがまた今回も周りに愛想つかされて一人に戻っただけ。何も変わらないわよ。下らない理由付けで頷けるほど大人じゃなくてやっぱり涙は引っ込まない。放課後の教室に夕日が差し込んだ。確か、彼が告白してきてくれた時もこんな綺麗な茜色をしていた夕日だった。

「はっ……。あんたなんかこっちから願い下げよ」

 最後の強がり。もう泣きっ面を晒しているのにこれ以上何を強がるかなんて分からない。でもこれが私なの。強がって、負けたくなくて、馬鹿みたいな。そんな私を好きになってくれて本当に嬉しかったの。でもこれで終わり。最後は思ったよりも呆気ないからこの出てくる涙は拍子抜けの涙なのよ。あんたなんかの為に泣いてるわけじゃない。
 苦しい言い訳を重ねてみても、苦しくて悲しいだけ。


「何言うとんねん。俺はお前がええんや」

 ぎゅっと抱きしめられて、予想以上にがっしりした体つきに血流が逆になるくらい猛スピードで身体を駆け巡る。すっぽりとはまるように抱きしめられてしまったので抵抗も出来ない。何よ、何が言いたいのかわかんないのよあんた。嫌いになったんじゃないの。
 理由なしに安心してしまってまた涙が止まらなくなる。勝呂の温かい腕と胸に顔をうずめてしまえばもう何もかもどうでもいい気がした。筋肉質な、鍛えられている私とは全然違うからだ。本当に男の子なんだ。

「もう喧嘩しとるなんてあほらしいわ。俺はお前が一番や。お前は俺が一番ちゃうんか」

 低い、掠れ気味な声が上から降ってくる。好きだと照れながら伝えてくれるいつもの勝呂を思い出して、また涙が少し。こうやって一歩一歩素直になれていけるかもしれない。なんて希望を抱きながらいつもよりは素直に彼の胸に言葉を吐き出した。

「馬鹿ね。当たり前じゃない」

 くすり。苦笑の声を、私は聞こえないふりをした。



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