あの五条悟でも恋愛に関してはままならないらしい


現状五条悟はプリンに負けているの続き


「なーなみ」
「何の用ですか、五条さん。それと二十八の大男がそんな声と仕草をしても可愛くもなんともないですよ」

担当していた任務の完了報告に高専へ来た七海。そんな彼を捕まえるため声を掛けた僕を見て、この後輩はサングラスの向こうでただでさえ細い瞳をさらに鋭く細めた。

「あのさ、思いっきりビンタしていい?顔が変形するぐらい」
「駄目に決まっているでしょう。何ですか、突然」

ビュンと風を切る音を立てて手を振る仕草をする。そりゃあ僕だってさあ、出来れば可愛い可愛い後輩にビンタなんてしたくはないよ?でも彼女が絡んでいるならばそうも言っていられない。僕は先程別れたばかりの彼女の姿を思い浮かべた。

「彼女がさあ、疲れてる様子だったから声を掛けたんだよね。僕の格好良い顔でも見て元気出しなよって素顔出して」
「……既に言いたいことは色々とありますが、もう面倒事なことには変わりないので少しでも面倒な要素を減らすためにあえて何も言いません。それで?」
「そうしたらさ、彼女なんて言ったと思う?」

『私、どっちかっていうと七海さん系統の顔の方が好みなんですよね』

「有り得ないでしょ。彼女、目が悪いんじゃない?もしくは頭。硝子に診てもらった方が良いよ」
「貴方と彼女の痴話喧嘩に私を巻き込まないでください。――ああ、失礼。別に五条さんと彼女は恋人でもなんでもありませんでしたね」
「お前、絶対にわざとだろ?」

僕と彼女の関係を表す言葉はいくつかある。
まず高専の先輩と後輩。二つ下の彼女は僕を怖がることもなく、逆に心配になるほど人懐っこく僕だけじゃなく皆に気に入られていた。
次に同じ職場の仲間、呪術師と補助監督。残念ながら彼女は術師として芽が出なかった。ひたむきに努力を続けていた姿を見ていただけに駄目でしたと眉尻を下げて笑う彼女を慰めてあげたかったけど、僕には上手い言葉が見つからなかった。でも彼女はそんな慰めの言葉なんて必要ない程強かった。補助監督として五条さん達のサポートに入ります、直接私の手でというのは無理でしたがそれが結果的に世のためにもなると思いますのでと新たな目標を宣言した彼女の表情は、とても美しく見えた。
そして気が付けば、僕にとって彼女は誰にも渡したくないと思う、まあその――僕の好きな人、だ。

「あの五条さんにもままならないことがあるなんていい気味ですね」
「七海、マジで可愛くない」



「お疲れ様っス」
「あ、明ちゃんだ。お疲れ」

事務仕事も一段落し、椅子に寄りかかり酷い声を出しながら全身を伸ばす。そんなところに現れた明ちゃんに姿勢を正して視線を向けた。

「……なんか具合でも悪いんスか?顔色微妙に良くないっス」
「大丈夫だよ、ちょっと事務仕事が続いて疲れてるだけ。そういえばさっき五条さんにも言われたんだけどそんなに顔に出てるのかな」
「へー五条さんさんが、ふーん」
「いや、何そのにやにや顔」

猫みたいに可愛く口角を上げた明ちゃんはうずうずとその好奇心を隠さずに言葉にした。

「結局のところ、五条さんとはどうなんスか」
「どうとは?どうもないけど」
「お二人共仲良いじゃないっスか。だからほら、付き合うとかそういう話っスよ」
「いや、ないない。五条さんにもそんな気ないでしょ」
「それ、マジで言ってんなら鈍いにも程があるっスよ……」

私と五条さんの関係を表す言葉はいくつかある。
まず高専の後輩と先輩。この狭い世界だ、二つ上の先輩に凄い人がいるという噂は入学前から私の耳に届いていた。実際に会った五条さんは性格には難あれど噂に違わぬ強さで、純粋にその強さには憧れた。
次に同じ職場の仲間、補助監督と呪術師。残念ながら私は術師として芽が出なかった。よく特訓をつけてくれたりと可愛がってくれた五条さんには申し訳なかったが、どんな立場でも呪いに苦しむ人を助ける術はあるはずだ。補助監督として五条さん達のサポートに入ると告げた際、良いじゃんと五条さんは笑ってくれた。

「しいて言うなら甘党仲間とか?」
「はあ」
「お互いに甘い物好きっていうのが分かってから学生時代からいっぱい食べに行ったりとかしてたんだ。私からは新作スイーツの情報提供をしたりとかね。五条さんは卒業してからは出張土産に人気スイーツを買ってきてくれたりしてくれるし」

そういえばこの間貰ったプリンは美味しかったなあ。今でも思い出したら涎がじゅわっと出てきそうな程でやっぱりネットでの口コミは信用出来るなあ。
明ちゃんはそんな私の回答に納得がいかないらしく、今度はムッと口角を下げた。

「……じゃあ五条さんにもって言ってたっスけど、アンタの方はどうなんスか」
「私?だって私と五条さんじゃ釣り合わないでしょ」

片や御三家に属する現代最強の呪術師。片や一般家庭出身のしかも才能もなかった補助監督。釣り合いが取れていないのは火を見るよりも明らか。

そう私にとって五条さんは――絶対に好きになってはいけない人だ。



2020.12.15
2021.04.08


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