猫とお願い


イルミ少年何考えてんの事件から約数か月。


「クルイ、来たよ。」




結論から言うと、イルミに懐かれました。

あのあとすぐ気絶したイルミをなんとかかんとか安全なわたしの隠れ家まで引きずっていった。(わたしの顎の力を褒めたい。)

数日後目を覚まして、なおあの化け物を狩りに行こうとしたイルミを問いただした所、
イルミの生まれたゾルディック家というのは暗殺を生業とする暗殺一家であることを教えてくれた。

イルミはそこの長男であり、生まれてすぐから厳しい修業を受けていて、今回のこれも、「まだ未摂取の毒を摂取した状態で、毒に対抗をつくりつつ森でターゲットの化け物を狩り、住処まで戻る」という修業だったそうだ。なんだそれ…

なんとか毒がなじむまで、というのもおかしな話だが、それまではせめてここで休んでいけと納得させた。本人は不満、といいうよりも、修行を早く完遂しなければならないという強迫観念のようなものにとらわれているのか。

生まれた瞬間からその環境にいれば無理もないかもしれないな…にしても想像もつかない世界だ。

なんとまだ三歳にもなっていないというイルミを、できる範囲で面倒をみてやりつつ、あたりの薬草だとか、獣の話をした。イルミはその話に思いのほか静かに耳をかたむけ、時折質問をすることさえ少なくなかった。ほんとに三歳か?

わたしのこと、なんで話せるのか、だとかも聞かれたが、わたしも知らない。むしろ教えてほしいくらいだ。と言ったら真っ黒の猫目を細めてなにそれ、と笑ってくれた。もう、可愛すぎない?

それ以降、イルミは度々わたしの隠れ家を訪れるようになったのだ。




「怪我の手当てくらいしてから来なっていつも言ってるでしょ?」

「あぁ、これ?すぐ直るし。放っといていいよ。」

「馬鹿、しかも煤だらけじゃん。今日は何してきたの?」

「電撃ずっと浴びてた。」

「はぁ…?」

相変わらず無茶なことをする。早く手当をしろと急かすと、渋々という風に怪我を洗いに水場へ向かう。訓練を受けているとはいえ、痛いには変わりないだろうに。

イルミはわたしの隠れ家にくると、家の訓練のことだとか、家族のことだとかをぽつぽつと話しだす。おかげで家の事情はだいたいは把握したが、どうにもわたしには受け入れがたいことも多い。でもイルミにとっては生家であり、その訓練は当たり前のこと、それが日常なのだ。

わたしが下手に口をはさむわけにはいかない。"おかしい"と口をはさむだけなら簡単だ。だがそれ以上のことが何もできないわたしがそれをするのは、無責任というものだろう。

年の割には驚くほど大人びている、というか成長が早いと思っていたが、やはりまだ子供。わがままがときおり見え隠れするようになってきた。家の人間には言えないのかもしれない。他所者(猫)だからこそ見せてくれている一面ならば、なるべく聞いてやりたいと思う。守ってやりたいというか、姉のような気分だ。

「そうだ、クルイ。オレの家こない?」

「イルミの家?」

「うん。なんか母さんがオレ専属の執事つけるとか言ってるんだけど、正直他人に周りうろつかれるのとかうっとおしいんだよね。でもクルイならいっかなって思ってさ。」

コテン、と首をかしげ、いいでしょ?と覗き込んでくる。あざといかわいい。わたしならいいって…猫だから?猫だからなのか?わがままをきいてやりたいとはいったがそれはまたなんというか、無理をおっしゃる。

「猫に執事まかせる気?ちょっと無理あるんじゃない…?」

「えー、クルイはオレの執事になるのいやなの?オレのこと嫌い?」

少しむっとしたイルミはわたしのことを抱え上げると、首のあたりを包むようにしてなでてくる。あぁぁあそういうの弱いからほんとやめよう?喉がゴロゴロなるのは猫の習性上仕方のないことだから。ほんとあの嬉しいとかじゃないからほんと。しっぽが立つのも仕方ないことだから。ちょっと撫でられただけでこんなテロテロになるなんて年上の威厳もなにもないじゃないか!嬉しくないってことにしておいてくれ!

「嫌いなわけないし嫌でもないですぅう…あぁあう……」

「じゃあオレのこと好き?オレの執事やってくれる?」

「好きだし執事もやりますから…ほんとあの…勘弁してください…」

「うん。」

さんざんわたしの好きなところを撫でまわしてYESの答えを引き出したイルミは満足げにうなずくと、じゃあ母さんたちのとこに連れてくから、とわたしを小脇に抱えるとものすごい速さで走り出した。

悪い男にひっかかってしまったなあ…。



 












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