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「おっはようございまーす!実力派エリートが大事な報告に来ました!」
玉狛支部に所属する実力派エリートこと迅悠一は珍しく朝から本部に顔を出していた。
その理由というのも迅が持っている特殊な能力、通称副作用と呼ばれるもので見えた、これから起こるであろう近い未来について一応総司令にお伺いを立てておくべきだと思ったからだ。
いつものおどけた調子で声をかけながら司令室に入れば、そこにはきっちりとスーツを着込んだ顔に大きな傷のある強面の男、総司令官である城戸正宗だけがいて、ほんの少し嫌そうな顔で迅を見ていた。
「…また何か起こるのか……迅……」
「城戸さん、その通り!今回はわりとしっかり見えたけど、どうも今日起こりそうなんで結構急ぎです」
「分かった……報告しろ」
「どうやらまた、近界民が1人こっちの世界に来るっぽいんですよ」
「なんだと……?」
「そんな怖い顔しないでくださいよ、城戸司令」
迅の言葉に城戸の眉がピクリと動く。近界民という単語に鋭い視線が更に鋭利さを増して迅に突き刺さった。相変わらずおっかないなぁと思いながらその視線にヘラりと笑ってみせるが、迅は今回のことについてそう難しく考えてはいない。
早く話せと言いたげなその視線に答えて、迅は口を開いた。
その内容としては、枝分かれした未来はいくつか見えたものの、今回やってくる相手はこちらに対して敵意や害意というものは持ち合わせていないこと。
むしろ向こうも話し合いを望んでいるようだと、しかし近界民がこちらに来る時防衛任務に着いていたのが三輪隊であり、その隊長である三輪秀次が食ってかかり、相手は身を守る為に致し方なく戦闘になるだろうことを、そして何よりも、どうやら元々こちらの人間であるということ。
「それは……その近界民がこちらで攫われた行方不明者ということか……?」
「多分そうだと思いますよ」
「ふむ……、帰還者……ということか。」
「はい、戦闘なんかも秀次が噛み付いてちょっと揉めるくらいで、俺が間に入れば問題なさそうです」
「……ならば今回の件、迅、お前に任せる。スパイかもしれん、無力化して連れてこい」
「かしこまりました!これより実力派エリート迅悠一、帰還者保護の任務に着きます!多分今日の昼頃に来そうなんで、夕方までには連れてこられますよ」
迅はそう告げて司令室を後にした。
部屋に残された城戸は重いため息を吐き、鈍い痛みを訴え始めるこめかみを指先で揉んだ。
「空閑のことといい……忙しないものだ……」
それきり司令室は静まり返っていた。
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