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程なくして遠征部隊が帰還した。
それから数日して訓練のために本部に顔を出した時、ボーダー内をあの長い足で闊歩する当真を偶然目にすると相変わらずどこか気だるそうに歩く様子は遠征前とは何一つ変わらない。何となくほっとしたような、そんな感情。
自分から遠ざけたくせに今でも気にしてしまう未練がましさに嫌気がさす。そっぽを向いてここから離れてしまえば楽なのに、それでも目が離せないのは久しぶりに目にしたその姿だけで胸がきゅっとするからなのか。
ぶすぶすと心の中で音を立てて燻る感情に思わず胸元をギュッと掴むと不意にこちらを向いた当真とばちんっと視線が合わさる。突然過ぎたのもある、しかし私に気づいた時、明らかに嬉しそうに目元を弛めて笑った当真に目をそらすことは出来なかった。

「(なんでそんな顔するの……)」

いつもそうだった。当真は私が避けるようになってからもずっと、顔を合わせる度こうして私に笑顔を向ける。私の中の汚い感情なんか何一つ気づかないで。それが尚更自分を惨めにしているようで、でも当真の中ではまだ私はそこらの人よりも近い存在なんじゃないかと思わせてくれる、その笑顔を嫌いになんかなれなかった。

「よぉ、久しぶりだなぁ権兵衛」

「遠征お疲れ様、当真」

「ん、さんきゅーな。」

「じゃあ、私、これで」

「まって」いつもの通り挨拶だけで立ち去ろうとした私の腕を当真がやわく掴む。振り払おうと思えば簡単にできる程度の弱い力でも、眉尻を下げて困ったような顔をする当真にそんなことは出来ようもない。
いつもと違う流れへの困惑と、本音を言えば少し嬉しかったからなんて、どの口が言えるのか。

「……なに?」

「あの、さ、オレ腹減ってんだよな」

「そうなんだ」

「それで、1人で食うのもなんか、寂しいだろ?」

「……う、ん?」

「その、オレが奢るからさ、一緒に食わねぇ?」

当真にしては歯切れが悪く、もごもごとしたその言葉に驚いた。私が当真を避けるようになる前から、当真からなにかに誘うということは殆どなかったし、避けるようになってからはこうして呼び止められることすらも無かったから。
いつもと違うその様子に何かあったのかと気にはなるけれど当真を避けてきた手前、どうしようかと悩む。

「用事あるなら、晩飯とかでもいいし、別の日でも」

「晩御飯まで我慢するの?」

黙り込む私に当真が慌ててそういうが、なんだからしくないその様子と今空腹で1人は寂しいからという言葉とは矛盾する誘い方に少し笑ってしまった。
私の言葉に当真ははっとすると照れたようなバツの悪そうな顔で頬をかく。それから1つ咳払いして、改めて私に向き直った。

「だってよ……最近、全然オレのこと構ってくれねぇじゃん」

「えっ」

衝撃だった。小さな子供のように口を尖らせて、拗ねたみたいなその言葉。まさか当真の口からそんな言葉が出るなんて思いもよらず、私の口はマヌケにもポカリと開いたままになってしまう。
そんなふうに思っていたなんて。いやいや、待てよ。もう話さなくなってだいぶ経つのに構ってくれないどころの話ではないはず。何言ってんだこいつ。かわいい。違う。私の心の中は大混乱だ。



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シ リ ア ス だ と 思 っ た か ! !
切甘にしようと思ったんですが当真さんが上から砂糖を撒き散らしていく……。
当サイトは切なめなものが多いので、たまには当真さんがお砂糖ぶちまける甘めな愛されもよいかなと……思って……。

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