可愛いキミ


※年上師匠ヒロインと弟子出水



「師匠どこにいんだろ」

出水公平は任務を終え報告を済ませた後、自身の師匠であり想い人である名無之権兵衛を探して本部をふらついていた。特に用があるわけでもないのだが、任務終わりに権兵衛の顔を見るとその日の疲れが飛んでいく気がするのとただ単に会いたいだけという理由でうろうろと大好きな姿を探す。

「あ、師匠!」
「おー、公平。」

肩甲骨あたりで揺れる黒髪が目に入ったとき、出水はそれが誰であるかを瞬時に察して駆け寄った。同じく任務帰りであろうその人に声をかければこちらを振り向いてゆるく笑う。
そんな笑顔を見るだけで先程まであった疲れがなくなっていく気がするのだからやっぱりこの人は凄いなと思いつつ、自然に体の動くまま自分より随分小さいその体に抱きつく。
すっぽりと腕に収まるその感覚が何より心地よかった。

「会う度に抱きつく癖どうにかしなさい」
「いや、師匠見るとつい…」
「ついって…いや、いいけど。なんか用だったの?」
「別にないっすけど、師匠に会って一日の疲れを癒そうかなーって」
「癒えないから。帰って寝なさい」

自分の腕の中で呆れたように言うその人の言葉は聞かなかったことにしてすりすりとその小さな頭に擦り寄る。くすぐったそうに笑う権兵衛は本気で嫌がっていないことが分かっているから好き勝手にしているが、いかんせん片想い相手。ドキドキとなる鼓動が聞こえてやしないかと思うが離れるつもりもない。

「私お腹すいたからご飯食べに行きたいんだけど」
「じゃあ俺も行きます」
「太刀川とかと居酒屋行く約束してんの。」

「公平まだ未成年でしょ」そう言ってするりと腕の中でから抜け出た権兵衛の言葉に出水が不機嫌そうに口を尖らせる。自隊の隊長ながら師匠と夕食に行くとはなんて羨ましい。というかあの人と師匠を一緒に行かせるなんて植えた狼に子羊を放り込むのと大差ないではないか、つーかゆるせねぇ、今度偶然装ってメテオラしてやろう。そんな物騒なことを考えながら歩き始めた権兵衛の後をついて行く。居酒屋だろうとなんだろうとついて行くつもりの出水に諦めるという言葉は存在しないようだ。
それを知っているからこそ権兵衛はそれ以上特に咎めることもなく後ろをついてくる可愛い弟子に仕方ないなぁとまた笑った。
なんだかんだ権兵衛も自分を慕っている弟子が可愛くて仕方ないのだ。出水が自分に向けている感情がただの師弟に対する敬愛ではないことに気づいてはいるし権兵衛自身も出水に対して淡い思いを抱いてはいるが、今はまだこの関係が心地よくて手放せない。
自分のあとをちょこちょことついてくる可愛い弟子を振り返って手を差し出せば、途端にその顔に花が咲いたように満面の笑みが浮かぶ。

「(…やっぱ可愛いんだよなぁ)」
「師匠、今度は俺と二人で飯行こう」
「わかったわかった。いつでも行ったげるから」

ぎゅっと握られたその手が温かくて、となりを歩くお互いの距離が心地よくて、この弟子の隣にもっと近い関係で収まるのも悪くはないかもしれないなぁと思う権兵衛だった。

可愛いキミ

(結局お互い惚れてるわけで)



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アトガキ
初出水くん夢。何この子難しい…!
リア友に出水くん書けよと言われたので書いてみました。やっぱり甘くはならない。

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