黒い銃口は小刻みに揺れていた。彼の腕を考えれば怯えているわけではないし、勿論良心の呵責に苛まれているわけでもない。脆い人間である彼の身体が限界を超えているだけ。


ああ、そんな物でこの私に傷一つつけられると思っているのですか?私の得意なおじないを唱えて、その冷たい武器を甘いお菓子にしてあげましょうか。マカロン?トリュフ?それとも、フィナンシェ?


「無駄ですよ?」
聡明な貴方に知らないなんて云わせない。ついでにもう一つ。守りたいだなんて、願望は結局何の希望や人間の欲する力にはならない。


お止めなさい、もう。全て投げ出して此処にいらっしゃい。貴方の大事なものは私の指先一つでどうにでもなるのです。貴方が命を掛けるよりも遥かに簡単に、例えるなら飴を噛み砕く程度に。


「僕がっ…兄さんをっ…ゲホッ…」
「おや、大丈夫ですか?」


口から吐き出された鮮血は酷く甘ったるくて蠱惑的で軽く目眩がする。大丈夫、内臓に軽いダメージはありますが死にはしません。勿論これ以上の無駄な抵抗をせず適切な治療を受ければ、の話ですが。
「来る…なっ…」
「それは聞けませんね。私は貴方の居る場所になら、何処にでも現れますから。…おっと」


トリガーを引こうとした指先を止めて、とんっ。と足首を傘の先端で撫でた。途端、崩れ落ちた身体をそっと抱き締める。ヒビを入れた程度だが、脆い人間である彼の顔が歪むのは矢張り美しい。




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