「弾丸は服が傷みますのでね。さぁ、どうします?私としては出来るだけ貴方の意志を尊重したい。ただ、それが私の意にそぐわない場合は、少し苛々して誰かを殺してしまうかもしれない」
「…っ…」
「もしかすると、その誰かは貴方の大切な人かもしれませんがね」
からんと黒い銃が地に落ちた。血液を失いすぎて意識を途切れさせたのかと思うが、凍るような碧玉の双眼に見据えられ、そうではないと知る。つい口元に浮かんだ笑みを私は隠すこともせず、彼の顎を掴んだ。抵抗は、無い。
「ご気分は?」
「……手は…だすな…」
「おや、まだお兄様の心配ですか?気になさらずとも、紳士は約束を守ります。特に相手が貴方となれば、ね」
「……ふん」
目を開けているのすら億劫なのか彼は瞼を伏せた。彼の心を占める存在を今すぐにも消してしまいたかったけれど、仕方ない。まだ、壊すには早いのだから。
「さぁ、行きましょうか」
すっかり大人しくなり、それどころか呼吸すら最低限しかして無いような彼を抱き直し、そっと唇を寄せた刹那、もう何年も忘れていた痛覚を感じた。どうやら噛み切られたらしい。
閉じられていた瞳が再度光を帯びていることに本能的な悦びを覚え、知らずと笑い声を漏らす。
「愛してますよ」
何よりも美しい貴方を。そう、脆い人間が好む永遠などという言葉を使ってもいい。優しくて、甘美な夢を。
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雪ちゃん大好きピエロ