小話
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▽
「兄さん、コンビニ行くけど何かいる?」
「あー…コンビニ行くんならドラッグストア行ってきてくんね?」
「うん。何がいるの?」
「ゴミ袋と食器用洗剤、リンスの詰め替えにトイレの芳香剤とサランラップ、あとキッチンペーパーと…単3の乾電池。洗顔クリームも無かったし、お前の目薬も」
「そんなに?」
「ポイントが5倍なんだよ。ほら、メモ」
「…汚くて読めないんだけど」
「殴り書きだからな。書き直そうか?」
「いいよ、覚えたから。それだけ?」
「あ、それからついでにスーパーで挽き肉とキャベツも。今日ハンバーグだから、挽き肉二人分な」
「……二人分ってどんくらい?」
「そーだな、弁当用のもあっから300グラム」
「キャベツってどんなのだっけ?」
「はぁ?どんなのって緑の丸っこいの」
「挽き肉とキャベツ…挽き肉300とキャベツ…挽き肉って、牛肉?」
「…牛と豚の合い挽き」
「固まりのやつだっけ?」
「違う。米粒が集まったようなやつ」
「何色?」
「まぁ…赤かな。間違って鳥ミンチ買ってくるなよ」
「と、鳥ミンチ?何それ」
「まぁ見た目が全然違うから流石にそれはねぇか。書いてあんだろ。パッケージに」
「書いてなかったら?」
「いや、絶対合い挽きか挽き肉って書いてあるから」
「えーっと、どんくらい買うんだっけ?」
「だから300グラム」
「牛肉と…」
「牛肉と豚肉の合い挽き!!おまっ…もうっ!!何でさっきの記憶力を食材に発揮できねぇの!?」
「怒鳴らないでよ。忘れるからっ」
「…雪男、ドラッグストアで買う物は?」
「ゴミ袋と食器用洗剤とリンスの詰め替えとトイレの芳香剤とサランラップとキッチンペーパー、単3の乾電池に洗顔クリーム、あと僕の目薬」
「よろしい。スーパーでは?」
「…牛と…豚の肉…30…違う、300グラム…と…野菜」
「挽き肉とキャベツだ!…お前ホント…やっぱその記憶力の悪さは俺の弟だわ」
「…うわ、何か物凄く馬鹿にされてる」
「るせー。間違えんなよ」
「…兄さんの鬼」
「ほら、早く行かねーとまた忘れるぞ」
「くッ…覚えてろよ…」
「はーいはい。行ってこい」
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さぁ雪ちゃんは何を買ってくるのでしょうか。
▽
お前が白い肌に傷を負う度に、無力だと非難されているようで意味の無い苛立ちを感じるんだ。
大丈夫だと笑って、どうしようもない俺の感情の行き先に困惑を装う表情は嘘だってとっくに気付いているけれど、きっとお前はそれすら知っているんだろう。最早真実の境界線すら曖昧になってきたのかもしれない。
何度も肌を重ねて解け合った気になって、お前の紅い唇が俺の為に用意された沢山の優しい言葉達を吐き出して俺は1人、白い世界に閉じ込められる。そしてお前はまた肌を汚すんだ。
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自己犠牲。
▽
「兄さんは僕が居なくなったらどうするのさ」
「そりゃ探すに決まってんだろ」
「死んだら?」
「ん〜…雪男は人間だからな。確実に俺より先に死ぬよな」
「そうだろうね」
「いっそ悪魔にならねー?」
「どうやってだよ」
「どーにかすれば何とかなりそうじゃん」
「アバウトにも程があるよ兄さん」
「まー、今は小悪魔だけどな。」
「はぁ?」
「兄ちゃんメロメロ。これで更に牙とか尻尾とか猫耳とか生えたら萌死ぬ」
「牙と尻尾はともかく、何で猫耳なのさ」
「似合うからだ」
「ほんっとに馬鹿だよね。死ねば?」
「まだ死にたくないんじゃ無かったのか?」
「気が変わった。兄さんだけ死ねばいいよ」
「その笑顔も可愛いぞ雪男」
「撃って良い?」
「痛いからヤダ」
「全く。…ねぇ兄さん」
「ん?」
「そんなに上手く話を逸らせる頭脳を勉強に使えない?」
「それは無理だな。ほら、雪男ちゅー」
「………バーカ」
「お前の居ない世界なんて想像でもごめんだっつーの」
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双子可愛(ry
▽
「なぁ雪男。俺が急に居なくなったらどうする?」
「居なくなる?死ぬって事?」
「まぁ死ぬとか行方不明になるとか…兎に角、お前の目の前から消えたら」
「消させないよ」
「例えば、だよ」
「馬鹿馬鹿しくては考える気にもならない」
「いやちょっと、空気読んで考えろよ」
「居なくなったなら探すし、死んだなら僕も死ぬよ」
「え、死ぬのかよ?」
「当然だろ。兄さんの居ない世界で酸素を消費することに何の意味があるの」
「そんなに兄ちゃんが好きか」
「好きなんてそんな感情で表せるなら後追い何てしないよ」
「ま、そっか。けど雪男ってさ」
「なに?」
「以外と狂ってるよな。ある意味、悪魔よりも」
「兄さんは以外とまともだよね」
「まともなのも、ある意味悪魔としては異常?」
「別になんでもいいよ」
「良いのかよ」
「どうせ双子なんだから。どっちかがおかしいなら片方もおかしいんだよ」
「それもそうか」
「まぁ精々死なないで。まだやりたいことあるから」
「ははっ、お互い様だろ」
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双子可愛い
▽
好き。お前しか見えない。愛してる。ずっと側にいて。離さない。永遠に守るから。
そんな言葉を雪男は嫌い、無駄だと云う。
頭の悪い俺にはその意図が理解出来ず、何故だと聞いたら、宝石の様なエメラルドグリーンの双眸を細め
「僕らは2人で1つなんだよ。自分に自分で好きなんて、おかしいもん」
それはそれは綺麗に、丸で詠うように吐き捨てた。
ああいっそ、胎内で溶け合ってれば良かったのかな?
いつか、人々が老いて死んで、お前がいなくなった時。
漸く還れるのだろうか。
(そうであればいいと願うけれど残された時間は永遠かもしれない)
▽
「兄さん、課題終わった?」
「うっ…終わんねぇ…。訳わかんねー…考えすぎて死ぬ…」
「死なない。ドリル見せて」
「…鬼…ほら…」
「どれどれ…あれ、ずっと最初のページで止まってたの?」
「だって…わかんねぇんだもん…」
「ずいぶん悩んだ跡はあるみたいだけど」
「…悩んだだけだ」
「聞いてくれたら良かったのに」
「………」
「兄さん?」
「…怒んねーの?」
「へ?何が?」
「最初のページで止まってた事とか、結局解けなかった事とか…お前と比べてバカなとことか」
「怒られたいの?」
「んな訳ねーだろ」
「ただ問題を目の前にぼーっとしてただけなら怒るけど、一生懸命考えてたなら怒るわけないだろ。バカなのは認めるけど」
「み、認めるのかよ…」
「というか兄さんはさ、バカだけど本当に頭が悪い訳じゃないと思うんだよね」
「へ?」
「例えばテレビで一回見た料理はメモもしないで同じ物が作れるし、ご飯食べに行ったときも、どんな風に作ってるのか僕が聞いたらすぐ答えてくれる」
「そりゃーまぁ…慣れだよ。作るのは好きだし」
「そう、慣れ。勉強も同じなんだよ、兄さん」
「は?」
「料理だって基本があるだろ?それを理解してコツを掴めば後は応用。勉強も同じでね。基礎を理解すれば、有る程度勉強に対するコツが判る。どんな風に進めていくと効率が良いか、とか」
「ふぅん…?」
「だから、まずは勉強に慣れること。こればっかりは自分でやって慣れてくしかない」
「ふぅむ…」
「つまり、問題を解くだとか答えを見付けるよりも、まずは勉強をする習慣を身に付けようって事。だから、きちんと考えてる兄さんを怒ったりはしないよ」
「…んー、良く判んねぇけど、一生懸命考えろって事?」
「ま、そういう事だね。兄さんなら大丈夫だよ。僕もついてるし」
「…雪男(じぃん)よし、兄ちゃん頑張るからな!頑張って雪男を幸せにするから!」
「え?」
「勉強して偉くなって、聖騎士になって金持ちになる!んで、デッカい豪邸に住んで雪男をお嫁さんにして…(ブツブツ)」
「…兄さん、目がイッちゃってるけど」
「よしっ、絶対船で世界一周に連れて行ってやるからな!」
「船、ねぇ」
「でっっっかい船だぞ!すげー豪華な料理が出てくる船!」
「ほう」
「スイカ線の夕陽を雪男と一緒に見る!」
「水平線ね」
「そうそれだ。流石雪男!というわけで兄ちゃんはパスポートを取得してくるからっ!」
「おいコラ待て。何逃げようとしてんだ馬鹿兄。バレバレなんだよ」
「……だってパスポートが…」
「その前に勉・強。さっさとドリル仕上げろ」
「うぅ〜…早く船に乗りたい…」
「授業中にいつも船漕いでるだろ。さ、教えてあげる」
「……ふぁぁい…」
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多分あと10年で雪男は大金持ちになりそうだ。
▽
「雪男、ナース服に興味ねぇ?」
「無いってば。…たくっ、管理人が年中ナース服とかメイド服とか馬鹿な妄想ばっかりしてるから僕にまで被害が…撃ち殺してやりたい(ぼそ)」
「ん?何か言ったか?」
「何も。ていうか、まさかナース服貰ってきたの?」
「すげぇ。何で判るんだ?『この前は失敗しましたからねぇ。次こそは写真をお願いしますよ☆』だってよ。ほら」
「管理人共々撃ち殺したいよ。兄さんもそんな馬鹿な物より、参考書の一冊でも貰っておいで」
「兄ちゃんは夢を追いかけたいんだよ。夢と言う名のロマンを!」
「追い掛けてそのまま帰って来ないで」
「俺は常に雪男と共にあるっ!!!」
「無いよ。てかうるさい。頭痛くなるから叫ばないでくれる?」
「おぉ。じゃあこんな時こそさ、ナース服着て『せんせぇのおっきい注射してください』って云わねぇ?」
「……撃つのすらイヤになったよ。弾が勿体ない」
「ほら、雪男。ずいっと着てみようか」
「着ないってば。あー馬鹿に刺す注射が欲しい」
「兄ちゃんの注射ならいつで」「暫く入院して来い」
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ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
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「ふー。兄さん、お風呂空いたよ」
「おう。じゃあ入って…ってこら、お前また髪濡れてんじゃねぇか」
「その内乾くよ」
「このクソ寒いのに風邪引くだろ。ったく、そこ座りなさい」
「自然に乾くって」
「だーめ。ほらお座り」
「もー。…はい」
「よろしい。じっとしてろよ」
「ん。……暖かい」
「だろ?折角綺麗な髪の毛なんだから、ちゃんと手入れしろよ」
「兄さんだってガシャガシャ拭いて終わりだろ」
「俺はいーんだよ。すぐベッド入るし。お前は勉強だの採点だの遅くまでやってんだろうが」
「すぐ寝るから寝癖になるんだよ」
「いーんだよ。ワイルドで」
「意味判んない。…もう乾いたんじゃない?」
「まだだ。つか、本当アバウトだよなそういう所」
「兄さんは本当丁寧だよね。こういう時だけ」
「だけは余計だ。……よし、綺麗になった」
「ありがとう」
「やっぱサラサラだな。んー…さわり心地抜群…」
「くすぐったいよ兄さん」
「……。やばい、ムラムラして来た」
「は?」
「風呂上がりの上気した肌とかシャンプーの匂いとか少し熱めの体温とか。凶器じゃね?」
「兄さんの馬鹿さが凶器だと思うよ」
「な、ベッド行こ。暖めてやるから…」
「ちょっ…耳噛むなって…んっ…」
「弱いもんな、耳。こっちはもっと弱い」
「やっ…にい、さっ…」
「いいだろ?後でもう一回風呂入れて湯冷めしないようにしてやるから、な?」
「ば…かっ…」
「ほら、兄ちゃんが部屋まで連れてってやるから掴まれ」
「うっ…もうっ…」
「よしよし、明日から毎日髪乾かしてやるからな」
「えろ悪魔っ…」
「ご期待に添えるよう頑張るわ。ちゅっ」
■□■□■□
というわけで雪男の髪は燐が乾かします
▽
「兄さん。何これ」
「んー?なっ…ど、どこからそれを!?」
「掃除してたら出て来た。18点…どうやったらこんな点数になるの?」
「ま、間違いが多かったから…かな…?」
「間違い?間違いすらも書いてないだろ。ほぼ空白。合ってるのは○×と記号のみ」
「は、はは…そうだなぁ〜」
「そうだなぁ、じゃねぇんだよ。僕を胃炎どころか胃ガンにでもしたいの?もしくは胃を爆発させたいの?」
「滅相モゴザイマセン…」
「祓魔師になるとかの前に進級出来るわけ?」
「出来ると…いいなぁ…あはは。…ほら、雪男怒るなよ。血圧上がっちゃうぜ」
「………。…はぁ。もういい」
「え?雪男サン…?」
「勝手に留年でも何でもすればいいよ。僕はさっさと卒業して医者になって優雅に暮らすから」
「えっ…」
「兄さんより頭の良い犬を沢山飼って、一人で楽しく生活するよ。兄さんは何年でも留年したら?理事長には僕からもお願いしてあげる」
「ちょー!ちょっ、ちょっと待て雪男!!」
「30歳位になってもまだ制服だったりしてね。まぁ僕には関係ないけど」
「まっ、待て!そんなことになったら雪男を嫁に出来ないだろっ!!!」
「経済力のない、学生のままのお馬鹿な兄さんと暮らすつもりはないよ。その点勝呂君なんかは有能そうだし良いよね」
「判った!判ったから!!まじ頑張るから!!見捨てないで!!!俺が雪男を幸せにすっから!!!」
「ふぅん。出来るの?」
「やる!絶対やる!!」
「そう。じゃあ其処まで云うならまずこのテストの復習からやろうか」
「えっ、い、今から…?」
「何か不満でも?」
「い、いやぁ…休日の午前中にわざわざ雪男の手煩わせるのもなぁ…なんて…思ってみたり…」
「そ。じゃあ来年もその次も一年生のまま頑張って。ちょっと勝呂君のとこ行ってくる」
「今すぐやらせていただきます!!!」
「判ればよろしい。さ、そこ座って」
「うう…はい……」
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一緒に卒業しようね。
▽
「雪男、これ買って」
「ダメ。昨日もお菓子買ったろ」
「だってこれ新発売だぞ」
「昨日のお菓子もそう云ってたでしょ」
「昨日のはちゃんと昨日の内に食った」
「えっ、もう?というか僕一口も食べてないんだけど」
「雪男が風呂に入ってる時に食ったからな!」
「…そんなどや顔で…」
「雪男が一緒に風呂に入ってくれないからだ」
「兄さんと入るとうるさいもん」
「風呂は楽しく入るもんだ」
「風呂ぐらいゆっくり入らせて」
「じゃあこのお菓子を買うか一緒に風呂に入るか、さぁどっち」
「どっちも無し」
「じゃあ兄ちゃんに熱いハグでファイナルアンサー?」
「兄さんの頭がバグでファイナルアンサー」
「…昔は『お兄ちゃんおふろはいろう?』ってあんなに可愛かったのにな…」
「昔は『にいちゃんのお菓子たべてもいいから早くげんきになれよ!』って云ってくれたのにね」
「……過去は過去だな、雪男」
「そうだね。ほら、帰るよ」
「過去は海に流してお菓子買いませんか?」
「水ね。僕としては兄さんを海に流したい」
「海水浴のお誘いか?」
「一人で寒中水泳しておいで」
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最近兄さんが太ってきましたby雪男
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