トゥリからの手紙の残骸その1
2015.11.08.Sunday
遙か昔。ロウネという優れた種族ありけり。
文明、知識、身体能力、全てが優れた彼等、繁栄を誇りて、世界を手中に納めたり。
だが、有る夜、全ての頂点に立っていた筈のロウネは、他者に寄生せねば生きることが出来ない奴隷へとなり果てたーー。
・
「おい、聞いたか。最近、この町にロウネが出たらしいぞ」
「ロウネって、あの神話の化け物だろ? あんなの本当にいるのか?」
「それがいるんだって! なんでも……」
「すみません、通ります!」
なにやら興奮した様子の男達に一言断り、撓わに実った小麦のような美しい髪をした少女が脇をすり抜けた。
何やら急いだ様子で通路を駆け抜ける少女の両手には、沢山の林檎で満たされた紙袋が抱えられており、芳醇な香りが少女の後に残される。
すれ違った者達は、その勢いに目を丸くさせ、また別の者は林檎の香りに目を細めた。しかし、その内の誰もが、彼女の手首に奴隷の証である、プレートが巻かれていることに気付かなかった。
やがて少女は目的地である町の外れの丘へと辿り着いた。
深呼吸をして荒れきった息を落ち着かせ、乱れた髪を整えてから、彼女はゆっくりと歩を進める。スカートの裾から見える白い足には、赤い靴がとても映えて見えた。
少女の目指す先には、高台の木の根本に腰を降ろし、本を広げたままうとうとと眠っている焦げ茶色の髪の男がいた。彼の姿を確認した途端、少女は男に駆け寄り、満面の笑みで、
「トゥリ。起きてください。ご飯にしましょう」
「……ん、おかえり。イハナ」
イハナに起こされたトゥリは黒い双眼を眠そうに擦ると、金色の髪を撫でくり回して、紙袋から林檎を一つ取った。
「もー、子ども扱いしないでくださいよ。私、もう16なんですよ」
「16なんざ、まだまだガキだ」
「じゃあ、24のトゥリはおじさんですね」
「はいはい。で、何か情報あったか?」
嫌みが効いていない事に頬を膨らましつつも、イハナは紙袋の底から紙切れを取り出す。
「ここ一ヶ月、夜中にロウネらしきものの姿が発見されているようです。運良く生き延びた方の話によると、全身に水を纏っていたとか……トゥリ」
「ああ、間違いなくロウネだな」
ロウネは神に愛されたと言っても過言ではない程の素質を備えている。
その中でも最も注視されるのは、自然現象を扱うことが出来る特異能力である。
今回発見されたロウネは、どうやら水の力を操れるようだ。
「イハナ、今夜行くぞ。……いいな?」
「はい。トゥリが望むなら」
出会った時と寸部違わぬ微笑みを見せるイハナに、知らぬ内に頬が緩む。
その笑顔に少しの安らぎと、多大なる罪悪感を抱きながら、今度は優しく頭を撫でる。また、と頬を膨らましながらも気持ちよさそうに目を細めるイハナの姿に、心が痛んだ。
・
今やロウネは他者と契約を交わす事によってしか生きることが出来ない。
それが何故かは分からない
その一、完!
とまぁ、こんな感じでびっくりする程の知り切れトンボ状態で放り投げるのが、山田式ビッグバンです。
このころはまだトゥリ達の種族がロウネでした。ウスコアになった理由は名前が三文字パラダイスになったのと、覚えられなかったことが原因かと。
ファイル名が「ロウナ」だったので、完全に覚えていませんね。ははは、こやつめ。
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