あれから約一ヶ月経ち、兵太夫くんと仲良くなるにつれて家庭教師の時間が楽しくなってくることに気付いた最近。今日も家庭教師をするために笹山家へと向かう。一ヶ月も経つともう慣れたもので、玄関のチャイムを鳴らしたり、兵太夫くんの部屋をノックすることに戸惑うことは無かった。(相変わらず緊張はするが)


「今日も宜しくね、先生」

「こちらこそ、頑張って教えるね」


そう言った兵太夫くんは何だかいつもよりも機嫌が良さそうで、教える側の私ですらも機嫌が良くなってしまうほどの気持ちの良さだった。何か学校で良いことでもあったのかな、後で休憩時間のときにでも聞いてみようかな、なんて思いながらも兵太夫くんの勉強を手伝う。因みに今日は問題集を解くばかりだけど私も苦手なところなので真剣にやらないと危ないかもしれない。


「あーやっと終わった」

「あはは、今日は一時間みっちりだったから疲れたね」

「途中から僕やる気なくなっちゃったよ」

「ごめんごめん、じゃあ今日は休憩長くしてゆっくりやろうね」

なんて二人で会話しながら笹山さんが淹れてくれた緑茶を飲み込む。因みに今日のおやつも私の好きなみたらし団子だった。兵太夫くんは偶然だというけれど、もし本当に偶然な私の好みが兵太夫くんに筒抜けになっているような気がして何だか恥ずかしくなった。・・・そんなことを黙って考えていると、兵太夫くんが「あ、そうだ」と言って私に話しかけた。


「今日さ、学校でクラスの女の子にキスしてって言われたんだけど」

「ぶっ、キ、キスって・・・まだ小学生でしょ!?」

「汚ない。なまえさんお茶吹かないでよ」


あまりに突拍子のないことを言われたものだから、驚きのあまり飲んでいたお茶を思わず吹いてしまった。キスって。小学生がキスってどういうことですか。・・・そんな私にテイッシュを差し出しながらも兵太夫くんは話を続ける。


「小学生はキスしちゃいけないの?」

「そ、そういう意味じゃなくて・・・」


兵太夫くんの大人っぽい言葉についつい賛同してしまう。というかキスって。私が小学生の頃は精々男子が言う露骨な下ネタでクラス中が笑っているくらいだったのに。最近の小学生はマセてるなぁと思いながら兵太夫くんの話の続きを聞く。


「まぁいいや。それでさ、なまえさんってキスしたことあるの?」

「へっ、ああああるよ!私もう20歳だから!兵太夫くんと違って大人のキスだって・・・」


頭の中で考えるよりも先に口が勝手に開いてしまい、好奇心旺盛な兵太夫くんの言葉に思わず乗ってしまった。というか何を言っているんだ私は!兵太夫くんが思っても見なかった話題を振ってきたからって子ども相手にそんなこと言っちゃだめだろう。
私がそんなことを考えているとは露知らず、兵太夫くんは意地悪そうな笑みを浮かべて私をじっと見る。


「へぇ、じゃあ教えて下さい。大人のキスってやつ」


そう言いながら小学生とは思えない色っぽい表情で私の唇へと近づいてくる兵太夫くん。何処で覚えたのか私の頬に手まで添えて、・・・ってこんなこと考えている場合じゃない!どうやってこの場を切り替えようかと頭の中で考えているうちにも兵太夫くんは近づいてくる。あと10センチ、あと5センチ、あとー・・・。頭の中がパンクしそうになり思考回路がストップしてしまう。あぁ、もうどうにでもなれ!と思って目を瞑ると、



「・・・なんちゃって。さ、勉強の続きしよっか、先生」


触れるか触れまいかのギリギリの辺りで兵太夫くんは悪戯が成功したような表情で笑ったのだった。ちくしょう、また悪魔にしてやられてしまった。



・・・それからの一時間、私が兵太夫くんの顔をまともに見れなかったのは言うまでもない。



110508

策略にかかる

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