≪……綾華?≫



電波を通じて、端末越しの彼の声。

どうしてだろう。
嫌じゃない。
むしろ、嬉しくて。
ああ、この感じ。
久しぶりだなあって思った。

電話番号を変えたにも関わらず、どうして御幸から電話が掛かってくるのか。
それは、


「…うん、そう。…まさか、本当に掛かってくるとは思わなかった」


素直な感想を私は言う。
正直、驚きを隠せなかった。
正直言って、あまり期待はしてなかった。

あんなに分かりにくい賭けをしていたのだから。


≪見つけた時は驚いたぜ?あんな遠回しな奴だったか?綾華≫
「…いいじゃない。楽しかったでしょ?」


その私の言葉に、薄ら笑いを溢している彼。
きっと、苦笑いでもしているのだろう。
『まあ、ある意味な』と言う。
正直言えば、こんなにも早く見つけるとは思いもしなかった。

あの、伊佐敷先輩に託した、ビッグベンの写真。
あの裏にはちゃんと御幸へ手紙を書いていた。
勿論、電話番号は“書いてはいない“のだ。
あんなに拒否しておきながら、連絡してほしいかのような態度を自分から出すのは抵抗があった。
私から離れておいて、『あなたから電話してきて』なんて直接も言えなかったし、そんな勇気はなかった。

だから、賭けをしてみた。

丁度写真は光沢紙で少し分厚い。
そしてビッグベンの写真も夜景だったから、ビッグベン以外は暗かった。
だからそこに、少し型を付けてみた。
光にかざしたり、少し手が触れるだけで、気付くと思って。
それに気付いてもらえなかったらもう。
そう思って。


≪数字の羅列だけでハイフンもなかったし、結構自分の中でも大きな賭けだったんだぜ≫
「ハイフン付けたらすぐにわかっちゃうから付けなかったの」


と言えば、『確かに』と納得しながら、御幸は『それにしても、本当に相手が綾華で安心したわ』と言う。
案外御幸も心配性なんだな、と思いながらも、そりゃそうだよね、とも思う。

彼は一般人じゃない。
プロ野球選手で、かなり有名人となっている。
悪用されかねないし、不安はつきものだろう。
私も浅はかだった、と少し申し訳ない気持ちになる。

それでも、リスクを感じながらも、御幸は信じて電話をしてきてくれた。
それだけでも凄く嬉しい気持ちになって。


≪まあそれでも、自信があったからなんだけどな≫
「え?」
≪絶対に綾華の電話番号で、『電話して』ってことなんだろうなって感じたし≫
「……何で。自意識過剰も甚だしいんじゃない?」


『相変わらず言うな、綾華は』と言う御幸に対して、『褒め言葉として受け取っとくね。ありがとう』と私も言う。

正直言って、理由は知りたいかもしれない。
そんなに私は分かりやすいのだろうか。
正直言ってその通りだし。
…個人的には、そんな素振りを見せたつもりもないし、文章も淡々としていたと思うのだけれど。
私はベッドに横になりながら、考えてみるけど、考えても考えてもわからないんだ。




prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -