「…母さんね、綾華にはピッタリだと思うわ。御幸くん」
後20歳若かったら、彼にアプローチしてたわ、なんて茶目っ気のあるようなことを言う母に、私は苦笑いする。
けれど、母は、『見た目の面でも、そう言う中身の面でも。彼以上の男は、そうそう出てこないわよ、きっと』と。
分かってる。分かってるよ。
御幸以上の男は絶対にこれから先も出て来ないって。
私が男の何を知ってるのかって言われたら何も知らない。
でも、本能がそう叫んでるんだもの。
でも、私は、“今じゃない“って思うの。
この感覚も、大事にしたいと思うし、私だけの問題じゃない。
私を本当に待っていてくれているなんて保証はどこにもない。
「ちゃんと…しっかり考えなさいね、綾華。今しか、こんなことで悩むことはないのよ」
お母さんはそう言って、再び作業を始めた。
私はと言うと、リビングから出て、自分の部屋に向かった。
ああ、もう。
「どうしよう…」
もう、どうしたらいいのか。
頭はパンク状態よ。
そう思っていたら、机の上に置いていたスマホが振動しているのが見えた。
ディスプレイを見ると、
「…」
見覚えのない電話番号。
けれど、それにはちゃんと見覚えがあった。
そして、掛かってくる用事がある記憶がちゃんとあるから。
通話ボタンを押す。
「…もしもし」
少し声が震える。
それは気のせいではないはず。
私は、緊張していたから。
その理由は。
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