私はあの後、まっすぐ家に帰り、家事の手伝いをした。
…御幸の久しぶりのあの姿はいい意味でも悪い意味でも、私の心を動かしてくれたような気がする。
頑張っているんだなあ、という姿が見られて、行ってよかったと思う。
「どこに行っていたの、綾華」
「…球場、かな」
弟とは違って、母さんは私の“昔”を知っている。
誰と付き合って、誰と交友があったのか。
知っているから、隠す必要はないと思い、ちゃんと言った。
そして、もうひとつ。
私は母さんに言うべきことがあると分かっている。
「ねえ、お母さん」
「どうしたの?」
「…あのね…」
『私ね、留学してた時、モデルしてたの』と。
私は静かに言った。
だからと言って、お母さんは驚きはしなかった。
ただ、『そう』と言っただけで。
逆に私の方が驚いていた。
どうして驚いていないのか。
「あら。綾華は知らないのね」
「え?」
「向こうのホストファミリーの方々が、ずっと送ってくれていたのよ」
『毎月のCherioと綾華が出演したショーのパンフレット、広告、写真全てね』と。
意外な事実を告げられた。
勿論、お父さんも知っているようで。
何だ、そうだったのか、と私は安堵したのは言うまでもない。
あんなに緊張していたのが嘘みたいだ。
案外緊張していたみたいで、体が、異様に軽くなったような、そんな気がした。
確かにホストファミリーたちは私だけでなく、私の両親の事も気にかけてくれていたなあ、と思い出す。
やっぱり、あの責任感の強いお母さんは、うちの母さんに教えないなんてことはない。
そうだよね、と思い直す。
「それでね、日本でもしないかって言われているの。モデルの仕事」
「…そう」
「…お母さんは、どう思う?」
もしもモデルの仕事をするとなれば、この家から通う事になると思う。
まあ、あまりにも記者とかが多くなってしまって身動きがままならなくなってしまったら、一人暮らしも考えなきゃいけないとは考えているが。
できるなら、ここから通いたいとは思う。
どうしようかな、と悩んでいるのは言うまでもない。
また、親元を離れて、寂しい思いをさせてしまわないか、とか。
竜也もきっともうしばらくしたら帰るんだろうし。
そう考えたら、普通の職業に就いた方がいいに決まってる。
だからこそ私は、モデルの仕事をしようか悩んでいるんだ。
「あら、辞めるの?」
「まだ悩んでるんだけどね」
「どうして?母さん、嬉しかったのよ」
「え…」
「娘がモデルよ?嬉しくない親がどこにいるの」
お母さんは本当に嬉しそうな顔をして、言う。
…ああ、良かった。
あの時の私の判断は間違ってなどいなかったんだと思う。
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