…いつだってそうだったよね。
何気ないことで喧嘩した時には、絶対に御幸が折れてくれてた。
『綾華』
『ごめんな、綾華』
御幸は悪くないのに、私がぐずれば、絶対に御幸は折れてくれて。
だから、私たちは続いていたんだ。
そんな御幸に甘えていたのは、誰でもなくて――私。
「…もう、いいでしょ…」
それも知ってたから。
だから、離れようとしたんだ。
『いつも見てて、御幸くんが可哀想』
『大体何で御幸くんと喧嘩になるの?よっぽど桐沢さんってキレ性なの?』
『御幸くんに、迷惑かけないで』
『大事な時期なんだから』
これらの言葉は、どれもこれも真実で。
きっと私なんかより、彼女たちのほうがよっぽど御幸のことを考えている。
御幸を、心から理解してくれるんじゃないかって。
私は、それもすべて御幸のせいにして。
「もう、私は絶対にない。これだけを知っててくれればいいから」
私は、御幸とはもう、関わる気はないの。
なのにどうして私は、彼の手を離すことをこんなに拒んでいるの。
私はそんな思考をも消すように、私の腕を思いっきり掴む御幸を振り払い、走って逃げた。
サヨナラなんて、言わない。
でも、もう。
君には、会えない。
―――会わない。
でも、私は知らない。
御幸が過ぎ去る私をどんな目で見ていたかなんて。
知る由もなかった―――
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