「…っ、御幸はずるいよ」


この言葉が、逃げだってことも。


「私が…っ私が、どんな思いで留学したかも知らないくせに…っ」


この言葉は吐いたらいけない言葉だってことも。
私は知っているのに。

こんなことが言いたいんじゃないのに。
―――止まらないんだよ。


「何も、私のことなんて知らないくせに…っ」


やめて。


「私の何を知ってるのよ…!」


やめてよ。
これ以上、御幸を責める言葉を、言わないで。
でも。
わかっているのに、次々と出てくるこの黒い言葉たち。

止まらない。
どうしても止まらないんだ。
御幸のことを恨んでなどいない。
私は御幸に、その当時のことを何も言ってもないんだから、そんな風に思う資格なんてない。

『どうして気付いてくれなかったの』
なんて言葉は、言わない。
そんなこと、無理だってわかってるから。


「さっきから聞いてりゃあよ…!」
「純」
「…っ」


御幸の先輩の、あの伊佐敷先輩だったかな。
その人が、あの部長さんに止められたから、私に怒りの視線を送る。

私は悲劇のヒロインぶってるだけでしょ。
そう、言いたいんだと思う。
御幸だって、って。
そう言いたいんだと思う。
私の言いようは、理不尽すぎる。

それは一番、分かってる。

でも。
でもね、そう言ってないと、やってられない。
最低かもしれないけれど、もう。
辛かったんだよ。


「確かに俺は、6年間の、…いや、多分綾華のことをあんま知らない」


言えって言われても、言えねえと思う。
と素直に御幸は言った。

それを聞いてると、やっぱりとも思ったし、少し悲しくなって。
私は馬鹿だ。
多分私は、御幸が一概に『お前のことを知ってる』と言っても腹が立ってただろう。

…一体私は、何を望んでいるのだろう。


「けど俺は、綾華を忘れたことなんて一度だってねえ」


これだけは、マジだと。
御幸はあの頃と変わらない、真剣な顔で。



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