▼ 第十三幕
**アリス視点**
「そんなことより、……どうしたの、この惨状は」
カエル達の山を見て、少しだけ申し訳ないなと思いつつ、あれの下敷きにならなくてよかったと嫌な汗を拭って、改めて問いかける。
そうすれば、その山からげこげこと一斉に声が上がった。
「そうなんですよ!」
「聞いてくださいよ!」
「もう限界です!」
「過労死ですよ!」
「いっぺんに言わないで、わかんないわ!」
思わず叫んだ私は悪くないだろう。
カエル達は私の言葉に、しばらくなにか話し合ってから、代表を決めたらしく一匹のカエル給仕が前に進み出た。
それは、最初にチェシャ猫のローブの裾を掴んだカエルに見えた。たぶん。
「この店で公爵と公爵夫人の結婚祝賀パーティーがあったんです……」
カエルはその大きな目をぐりっと動かし話始めた。
「公爵夫人も最初この店にみえた時は、可愛らしいお嬢さんで。そりゃあ、もともと少しばかりふくよかな方でしたけどね」
今の公爵夫人は、ふくよかの範囲を遥かに超えている、と思った。
まぁ、カエル給仕の話を要約するとこういうことだろう。
結婚祝賀パーティーに訪れた、少しふくよかなだけの公爵夫人は、この店の料理を気に入った。
カエル達も最初は嬉しかったようだが、公爵夫人はいくら食べてもお腹が満たされないらしい。
「いつまでたってもお腹いっぱいにならないんですよ、あの方は」
哀愁をにじませたカエルに「ならないの?」と、思わず問い返す。
「ならないんですよ」
どういうことだ、それは。
それより、疑問なのが
「仕方ないよ。公爵夫人だからね」
と、当たり前のことのようにチェシャ猫が口を挟む。
それ、公爵夫人だからで納得できるものなの?
カエル達も普通に、「そうですよねえ」と頷いているし、あまつさえ今私が一番信頼しているイリスまで
「公爵夫人ってそういうものだものね……」
と、苦笑混じりに同意しているので、またそういうものなんだ……と無理に自分を納得させる。
「そのうちどんどん体は大きくなるし、食べる勢いも量も増えて……こんなことに」
「? お料理出さなければいいじゃない。料理が終わったとか、もう閉店ですとか言って」
「………………」
カエル達が無言でこちらを見る。
「アリス?」
代表のカエルがニッコリと笑った。
「地獄、ご覧になりたいですか?」
「ごっ、ごめんなさい……!」
笑っていない大きな目に反射的に謝って、チェシャ猫のフードを握り締めた。
「アリス。……彼らは既に一度、試しているらしいわ」
私はその場にいなかったけれど……とイリスが言う。
なるほど…………そして地獄を見たのか。言葉通りに。
……これ以上この話には触れないようにしよう。
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