歪みの国と影アリス | ナノ
10408

 第十三幕

**アリス視点**

「そんなことより、……どうしたの、この惨状は」


カエル達の山を見て、少しだけ申し訳ないなと思いつつ、あれの下敷きにならなくてよかったと嫌な汗を拭って、改めて問いかける。

そうすれば、その山からげこげこと一斉に声が上がった。

「そうなんですよ!」
「聞いてくださいよ!」
「もう限界です!」
「過労死ですよ!」

「いっぺんに言わないで、わかんないわ!」

思わず叫んだ私は悪くないだろう。

カエル達は私の言葉に、しばらくなにか話し合ってから、代表を決めたらしく一匹のカエル給仕が前に進み出た。

それは、最初にチェシャ猫のローブの裾を掴んだカエルに見えた。たぶん。

「この店で公爵と公爵夫人の結婚祝賀パーティーがあったんです……」

カエルはその大きな目をぐりっと動かし話始めた。

「公爵夫人も最初この店にみえた時は、可愛らしいお嬢さんで。そりゃあ、もともと少しばかりふくよかな方でしたけどね」

今の公爵夫人は、ふくよかの範囲を遥かに超えている、と思った。

まぁ、カエル給仕の話を要約するとこういうことだろう。

結婚祝賀パーティーに訪れた、少しふくよかなだけの公爵夫人は、この店の料理を気に入った。

カエル達も最初は嬉しかったようだが、公爵夫人はいくら食べてもお腹が満たされないらしい。

「いつまでたってもお腹いっぱいにならないんですよ、あの方は」

哀愁をにじませたカエルに「ならないの?」と、思わず問い返す。

「ならないんですよ」

どういうことだ、それは。
それより、疑問なのが

「仕方ないよ。公爵夫人だからね」

と、当たり前のことのようにチェシャ猫が口を挟む。

それ、公爵夫人だからで納得できるものなの?

カエル達も普通に、「そうですよねえ」と頷いているし、あまつさえ今私が一番信頼しているイリスまで

「公爵夫人ってそういうものだものね……」


と、苦笑混じりに同意しているので、またそういうものなんだ……と無理に自分を納得させる。

「そのうちどんどん体は大きくなるし、食べる勢いも量も増えて……こんなことに」

「? お料理出さなければいいじゃない。料理が終わったとか、もう閉店ですとか言って」

「………………」

カエル達が無言でこちらを見る。

「アリス?」

代表のカエルがニッコリと笑った。

「地獄、ご覧になりたいですか?」

「ごっ、ごめんなさい……!」

笑っていない大きな目に反射的に謝って、チェシャ猫のフードを握り締めた。


「アリス。……彼らは既に一度、試しているらしいわ」

私はその場にいなかったけれど……とイリスが言う。


なるほど…………そして地獄を見たのか。言葉通りに。

……これ以上この話には触れないようにしよう。








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