空に月が昇る頃、黒いパーカーを頭にかぶる少女、タマは、以前自殺した廃ビルの屋上にいた。


「迷子の迷子の子猫ちゃん。あなたのお家はどこですか〜」


柵の上を類い稀なるバランス力で、道を渡るように簡単に歩く。そこに屋上の扉を開けて入ってきた男、臨也が来た。

彼の姿を見て、タマは猫のように目を細めて笑った。愛の力ってすごいね、と。

彼女は躊躇うことなく、彼の向こう側――床が続いていない、数歩ほど歩けば空が存在する方へ着地した。


「こんばんは、臨也さん。ご用件は?」

「タマ、帰ろう」

「やです」

「どうして?」


臨也は苛立ちを隠すように笑う。タマはそれを見抜いているのか、口角を上げた。


「私は……やっぱり野良猫がちょうどいいです。臨也さんが好きなのは変わりません。でも……」


あなたの恋人という首輪は填められない。
タマが悲しげに微笑むと、臨也は僅かに瞠目して、また笑った。


「それで?君は今からどうする気だい?」

「死にます。ここから落ちて、死にます」

「……へえ、よっぽど俺が嫌なわけか」

「ごめんなさい。私は勇気が無いただの女子高校生ですから」

「おや、君がただの女子高校生だとは思っていなかったよ」


化物が。

臨也は吐き捨てるように言う。タマはそんな彼を見て嘲笑う。

あなたも同じようなものですよ。

近づいてきた彼に、タマは牽制するように「来たら死にます」と言うが、彼は構わず歩を進める。


「ふふ、臨也さんはやっぱり変わらない。一年前も早く死なないの?って言ったきた。貴方はずっと、ずっとずっと……変わりませんね」

「そういう君はどうだい?何か変わった?変わってないくせに」

「いいえ、変わりました。私には……帰るべき居場所ができました」

「そこが……俺じゃないってことか」


自分の思うように進まなければ気に入らない性分の臨也は――歩みを早め、柵に置いていたタマの指に手を重ねた。突然の行動に彼女は肩を震わせた。


「そんなに死にたいなら――死なせてやるよ、化物」

「ご丁寧にどうも。離してもらえませんか」

「やだ」

「ガキですか。……せえーっの!」


臨也がいる真正面へ大きく頭を振りかぶり頭突きしようとすると、彼は察知したらしく後ろへ飛び跳ねた。

その隙を利用し、タマは勢い良く後ろへ仰け反り、空へ身体を委ねた。


「さよなら、ありがとうございました。大好きでした」


タマの身体は一年前と同じように、漆黒の闇へと落ちて消えていった。

一年前と違うところは、この時、地上にセルティが不在だったことだ。

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