「君がシズちゃんといると、とても腹立たしい想いをしてね」
折原臨也は真っ赤な目で私を見ていた。私は折原臨也の背後から、どこか遠く……この部屋から突き抜けた場所で首を絞められている私を見ていた。
「そこで思いついたんだ」
ああ、この方法はお母さんに怒られた時とか、苛められていた時とかによく使ってた。
こうすると、目の前の現実は私に降りかかっているんじゃなくて、もうひとりの身代わりである私が直面しているんだって思える。だから、全然、痛くないし苦しくない。
「“君を殺せば、俺のモノに出来るんじゃないか”ってね。我ながら呆れたよ。なんて子供染みた発想だろうと」
折原臨也の手が、絞めていた首から離れて、眼帯に伸びていく。その隙間に私は浅ましく空気を取り込む。
「俺はきっと、全人類に向ける愛を君に向けていた。それはあってはならないことだ」
ぱさり。あっけなく眼帯は落ちた。両目で見る世界はやはり広いなぁ。そして、左目に映る折原臨也の表情は、僅かながら驚愕の意が混じっていた。
「片目、だけ……。俺と同じだね」
いとおしそうにゆるく口角を上げるが、目は苛立ちと憎悪で濡れている。私は恐れるどころか、挑発的に無理矢理笑みを作って魅せた。
「かわいそうな…かいぶつ」
「黙れ」
「全人類なんて……そんなの無茶苦茶…ですよ……」
「黙れ」
「無謀…と……、勇敢を、履き違え、ちゃって…笑われちゃいますよ…?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ」
右手をゆっくり、ゆっくり上げて、硝子細工に触るように臨也さんの柔らかい髪を撫でる。
「ねえ、臨也さん…。どうして、わた、しは、あなたを……憎めない、のでしょう……」
「…………………」
「あなたは…仲間に入れてもらえなかった、可愛そうなひと……。ただ拗ねている、だけじゃないですか…?」
顔を伏せていてよく表情が分からない。けれど、私はひたすら言葉を紡ぐ。彼を愛したいから。誰にも愛されない彼(わたし)を愛してあげたいから。
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