ソファからおりて、床を這いずる。奈倉は笑いながらこちらに近づいてきた。逃げなきゃ、私。

奈倉に前髪を掴まれ、匍匐(ほふく)前進も無駄に終わった。無理矢理顔を上げさせられ、かなりきつい態勢。


「本当にタマは馬鹿だ、化け物だ」

「化け物は…っ…あんただっ…!!」

「ハハッ、そんなにしてまで自分を人間だって肯定したいのかい?愉快痛快だね」

「がっ、は……薬を盛った…あんたに……言われたく、ない……」


視界がぐらぐらする。こいつ、睡眠薬を使った?それにしても気持ち悪い感覚だ。


「シズちゃんになついちゃってさ、ほーんとムカつくんだよねえ」

「っ……はな、せ!」

「おっとっと。結構強力なクスリだったのに、やっぱり効かないみたいだね。これじゃシズちゃんに使うのは無駄だな」

「静雄、に…?なにするつもり…!?」


目の前でしゃがみこむ奈倉はにっこり笑った。ムカつくくらい爽やかに。


「なぜ君に教えなければいけないのかな?」

「そ、れは……っく」

「まさか、あのシズちゃんに情でも移ったのかい?ハハッ、笑わせるなよ」

「…わた、しは……しずおが、だいじ…っ!」

「ハハハハハハ!!やっぱりタマは面白いよ!化物同士、傷の舐め合いときたか!」

「ば、けもの…?」


睨み付けるように見上げれば、奈倉は鼻で笑った。ああ、この雰囲気、夢で会ったことがある…!


「自分が化物だと思わず人間だって思い込んでいたのかい?それはちょっと思い上がりだなぁ」

「思い、だした…貴方の、こと…!」


私の言葉に、ぴくりと柳眉が動く。男は口元に笑みを浮かべた。


「おや、遅かったね」

「折原、臨也…!私を、二回も、殺した…!」

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