出されたのはコーヒー。過去の私は甘党だったのか、ミルクは一つなのに砂糖は二つある。
今の私はミルクと砂糖、一つずつ。熱くて飲めないから、息をふうふう吹き掛ける。
「…………」
「どうかしましたか?」
「いや……猫舌なのは変わっていないようだ」
「……あなたって、私の彼氏さんだったんですか?」
私が真面目に聞いたのに、ぶはっと笑われてしまった。失礼な!
ムッとしていたら、男はごめんと謝った。笑っているから、謝られた気がしないんだけど!
「くっくっく……はあ。君があまりにも面白くてね」
「……そーですか」
十分に冷ましたコーヒーに口をつける。今の私はブラックでも大丈夫。私が飲むのを見て、男は話を始めた。
「俺の名前は奈倉。よろしく」
「はい、こちらこそ」
なくら、奈倉……。どっかで聞いたというより、見たな。もやもやする思考から、頑張って記憶を手繰り寄せる。
手を差し出されたけど、私は手を掴まず、カップの取っ手を掴んだ。
ゴクリと飲んで、奈倉さんを見る。
「それで、私の目を潰した奴は誰ですか」
「俺だよ」
「……は?」
「ハハッ、やっぱりタマは馬鹿だなあ」
立ち上がって奈倉に掴みかかろうとしたら、頭に霞がかってよろめいた。
この男、盛りやがった。
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