岸谷さんから痛み止めと住所の地図をもらい、お礼を述べてから帰路についた。

歩いていたら、金髪のバーテン服の人に睨まれた。更に右腕を掴まれた。


「な、なんですか…?」

「その目、どうしたんだよ」

「え?あー、わかりません」


知り合いなのだろうか。しかし、私の記憶には知り合いとか友人とかのデータがない。全件消去されたのだ。


「臨也の野郎にやられたのか……」

「いざや?」

「…?まあいい。気ぃつけて帰れよ」

「はぁ…。ありがとうございます」


よくわからない人だけど、頭を撫でてくれたからいい人だと思う。多分。

でも、なんとなくからかいたくなるのは何でだろう。これも前の私?


「……早く、記憶を戻さなきゃ」


立ち止まっていた足を動かす。岸谷さんは、無理に思い出そうとするのは駄目と言われた。

でも、私は思い出さなきゃいけないのだ。もしかしたら家族のことも忘れているかもしれないし。




部屋に入った私は驚いた。生活感が全くない。黒いクローゼットと小さなテーブルとシングルベッドが一つずつ。


「一人暮らし…?それにしても、暗いなあ」


置いてあるノートパソコンに目が行く。これもお決まりのごとく黒い。もしかすると、何か手がかりが得られるかも。

私は期待しながら開いた。

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