葵にとって初めて訪れた瀞霊廷という場所は、今まで見たどの景色とも似ていなかった。
白ばかりの建物の近くをたくさんの黒が動き回り、無機質な感じを覚えた。

人の多い東流魂街からやってきたばかりだったからよけいにそんな印象が強かったのかも知れない。





――零番隊隊室


「私の跡取りの葵。似てないけどよろしく」



そんな奇妙な紹介を、葵を連れてきた当の女死神―もとい初代零番隊隊長―からされた。

まだ少女と呼べるような年齢の自分を受け入れてもらえるかどうか不安だった気持ちとは裏腹に、零番隊の隊員は快く葵を迎えてくれた。



初めて見る死神の職場。
皆同じ服を着て、いつも持っていると思っていた刀はそんなに持っていない。

部屋の最奥には『零』と書かれた額があって、その少し前に隊長机。
そこから向かい合って二列に続く隊員達の机。

全部で十人の零番隊。





そこが葵がこれから暮らす場所だった。





とりあえず服だけは死神の服に着替えさせられて、そこから先何をすれば良いのかを全く教えられていない。
連れてきた当の零番隊隊長本人は室内の引き戸を開けて外を眺めだしてしまった。

どうしたものかと悩んでいた時、肩を叩く手が一つ。
振り返った先にいたのは少し背の高い、柔らかな笑顔を浮かべた青年。
猫っ毛が無邪気そうな印象を与えるけれど口調はとても落ち着いていた。



「ごめんね、びっくりしただろう。ここの隊長は気まぐれだから」



言われた通り、再び視線をやった先で隊長は外を眺めながらお菓子を食べていた。
袖が不自然に長いので食べづらそうだ。

そこまで驚きもしていないので、正直に「いえ」と返した。
そんな葵へ青年は「そう?」と尋ねたが、笑顔はいつになっても柔らかいままだ。
それが仮面ではない緩やかな感情から生まれているものだと分かったので心なしか肩が軽くなった。




「僕はここの副隊長だよ、そう呼んでくれたらいい。よろしく次期隊長」

「…よろしくお願いします」



そうして、差し出された手を僅かな遅れを持って握り返した。



 

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