うららかな昼下がりの午後、隊室までの道をのんびりと葵、ギン、乱菊が歩く。
昼食の腹ごなしに咲きかけの桜並木を散歩してきた帰り道。
「次僕か…春言うたら…つくしやね」
「それもありましたね。じゃあ私は…紋白蝶」
「あちゃー言われたわ、もうストック無いわよ。春、春…桜はもう言ったし…」
「言うたなあ、言い出しっぺが一番最初に言うたわ」
「うるっさいわね、ここまで続くと思わなかったのよ。春、春、うーん……」
前髪をかきあげながら悩む乱菊の隣で、何かヒントを与えられないかと悩む葵。
何か邪魔できないかとちょっかいを出すギン。
乱菊が言い出した「春連想ゲーム」が佳境を迎えてきた頃、目的の隊舎が見えてきた。
「今日はイヅルおらんし、乱菊連れ込んでも大丈夫やろ」
「そうですね。いらっしゃいますか?乱菊さん」
「春…春…」
「聞いとらんわこいつ」
「ふふ」
葵が三番隊へ移ってからさほど時間は経たないにしろ、三人でやることは変わらないので特に影響はなかった。
どちらかがどちらかの隊を行ったり来たり、どこか別の場所に集まったり、そんなもの。
「…見つけた!春といったら恋!」
ようやく悩みに悩んでいた乱菊が右腕をバッと振り上げて天啓のように叫んだけれども。
「いやいや、恋は春ちゃうやろ。冬やろ」
「えー、それ難癖よ。葵はどう思う?」
「そうですね…私は秋だと思います」
「あらー……まあ私は夏だと思うんだけどね」
「何やそれ」
何だったかしら、とおちゃらけて笑い合い、三番隊の仕事部屋に乱菊がお邪魔した。
隊長と副隊長、それから三席の葵の机しかない部屋なので、イヅルがいない今は貸し切りに近い。
「お邪魔してまーす、と。それにしても『春』だけで結構続くもんねー、ギンお茶」
「自分でくみいや。まあ単語五十近く出たしな……葵?」
いつもなら隊室に入るとすぐにお茶を淹れに行ってしまう葵が、自分の机の前で動かずにいた。
二人が声を揃えて何かあったのか尋ねると。
「あ、いえ…机の上に私宛の手紙が置いてあったので」
「仕事関連か?」
「いえ、私事です」
「「…………」」
きっかり五秒黙った後、二人がゆらりと立ち上がった。
「やっぱり春に恋につきもんやなあ…焚き火の用意せい乱菊」
「また燃やされる恋文が増えるのね……」
「え?あ、違います、違いますから…!」
慌てて葵が手紙の裏に書かれた文字を見せた。
そこには確かに。
『招待状』
【あしあとのこし】
[ 29/67 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]