「葵ー、遊びに来たでー」

「ああ市丸隊長。あの、来てくださったのにこんなことを言うのはとても失礼なんですが」

「何や?」

「助けてください……」














【手紙殺人事件】

















今日は乱菊が虚を倒しに現世へ行っていて一日中いない。
そのため相方を一人欠いてやってきたギンが見たものは。



膨大な量の手紙に囲まれ、身動きがとれないでいる葵だった。





「何やこれ…手紙か?」



思わずそう呟いて部屋に一歩踏み込んだ。
ほとんど家具類がないのが災いしてか、畳の隅まで隙間なく手紙が散らばっている。



「まあ手紙と言えば手紙なんですけど…」



手紙の海の中にいる葵のそばまで近寄ったとき、便箋に入っていないむきだしの手紙がギンの目に止まった。
そのせいでつい二三行ほど読んでしまった、その瞬間。



「……は!?」



ガバッと手紙をわしづかんでしっかりとその内容を確認した。
手紙と言えば手紙なんですけど、ともう一度葵が呟く。





「俗に言う『恋文』、なんですよ」





さらっと聞こえてきた葵の問題発言。
そう、目に入ってきたのは確かに告白めいた言葉。



「これ全部!?」

「ええ。もらうたびに押し入れへしまっていたんですが、今しがた雪崩が起きまして」



押し入れの戸を開けた瞬間に崩れ落ちてきた手紙に飲まれていたとき、ちょうどよくギンがやってきたとのことらしい。

散らばった手紙を隅に寄せ集めてとりあえず二人分の座れるスペースを作った。



「しっかし…ようこんなにもらったなあ」

「数年分です。私もまさかこんなに貯まっているとは思いませんでした」



淡々と葵はそう答えるけれど、ギンの心中は穏やかではない。
世にも恐ろしい笑顔で、大量にいるであろう差出人を思い睨んでいた。

思念で人が殺せるなら恐らくこの差出人全員を殺せていただろうに。





「…葵、今まで手紙もろた男の名前覚えとる?」

「ええと……一応」

「ちょおこれに書きだしてや」



そう言って筆と紙を渡されたので、驚異の記憶力でかなりの数の名前を書き上げた。



「覚えているのはこれくらい、ですが」

「おおきに。そんなら僕用事思い出したから帰――」



そそくさと部屋を出ていこうとしたところをしっかりと葵が捕まえた。



「どこ行くんですか市丸隊長、そんな真っ黒な笑顔で」

「嫌やなぁ、どこもいかへんよ。ただ少し脅さなあかん対象が出来ただけや」

「十分すぎるほど何かする気じゃないですか。もうこの方達とはお話ししてきちんとお断りしてますから、大丈夫ですから」

「いっぺんでも葵に手ぇ出した奴には死あるのみや」

「いりませんよそんなルール」



ギリギリでギンを引き戻しある意味でのブラックリストを取り返した。



「実際今日はいただいた手紙を整理するつもりで押し入れを開けたんです」

「そんなら全部捨てよか」

「いえ、そういうわけには……」



捨てられないと言い淀んだ葵にあからさまにギンが驚いた。



 
 

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