昼食の後、葵と乱菊は十番隊にすぐ戻る事はせず、ギンのいる三番隊でのんびりとお茶をする習慣があった。
普段の死神業から離れ、一息つけるこの穏やかな時間に。
「……あの、乱菊さん」
「何よ」
「……頬が痛いので手を離してください」
もう長い事頬を引っ張られている葵の姿があった。
【心配も一種の愛情】
さっきからガシッと葵の両頬を押さえ込んで、ほぼ距離0くらいまで顔を近づけている乱菊。
その視線の先は葵の透き通るような白い肌。
けれど今日乱菊が発見したことは。
「……葵にニキビがある」
「いや、私も相応の年ですからそれぐらいありますよ」
「たった一つだけどニキビがある」
「だからありますって」
片方の頬に出来た一つのソレが相当珍しいのか、先ほどから至近距離で眺めて離そうとしない。
葵の言う通りその年頃ならば無い方が不思議なくらいなのに。
「葵の初めて見たわ」
「そうですか」
「もっとコメントしなさいよ」
「……えーと……」
元々自分の容姿に興味がないせいか、こんなときでも感情が湧かない葵。
一応「触らないでくださいね」とは言っているものの、気にしている様子はない。
もう十分ほど自分の顔に出来たソレを見つめ続ける乱菊に、長年のつきあいから何か嫌な予感を感じとった。
(…まさか)
そう思った瞬間、乱菊が目をキラキラ輝かせながら葵の手を握って。
「私が治してあげ」
「結構です」
ほとんど嫌な予感が的中した。
葵がいつもの無表情でそう突き放してもめげる兆しのない乱菊。
「私葵にニキビが出来たら治してあげたかったのよ」
「結構です、自然治癒力がありますから」
「まあそう遠慮しないの」
「市丸隊長、市丸隊長はどこですか。乱菊さんを止めて下さい」
自分に覆い被さってくる乱菊に抵抗しながらギンの姿を探すと、すでに乱菊の背後にハリセン持ちでスタンバイしている当人の姿があった。
スパーン
「…ったく」
「……乱菊さん笑いながら気絶してますね」
「葵が普通の子みたいで嬉しかったんやろ。こうなるとしつこいでー乱菊は」
「そのようです」
「?」
「もう気がついてらっしゃいます」
見ると乱菊の腕がガッシリと葵の隊服の袖を握っていた。
「うっわ、いつのまに」
「私があの程度のツッコミで倒れるわけないじゃないの。こんな職務よりも重要なことを前にして!」
「今の日番谷隊長が聞いたら泣くでしょうね」
「ウチの隊長は泣いたら萌えるから良いのよ。それより葵のコレ!」
また顔に手をかけて至近距離で肌を見る。
「ほっといたらその内治るやろ」
「でも私は一刻も早く治ってくれなきゃ困るわ。あれやりましょ葵、レモンパック」
「レモンパック?」
「スライスしたレモンを顔に乗っけるアレよ」
「嫌です」
それ微妙に古いですよ、という葵の指摘もなんのその、持ち前の押しの強さで何とか強行させようとする乱菊とキッパリ拒む葵。
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