「それにしても、零番隊の子達にもそんなお茶目な所があるなんて。」

「隊の統制が取れていないんでしょうか。」

「何を言ってるの。」



うつむきかけた葵の鼻をつん、と指先で押した。



「葵は優しいから、ついつい隊の子達も甘えてしまうのね。
鬼のように恐ろしいと思っている人がチャッピーを当てたって、きっと誰も交換してくれなんて言えないでしょう?」



そう言った意味ではいいじゃない、親しまれていてと微笑む卯の花にそう言われてしまうと、あまり悪い事態に思えてこないのが不思議だ。
けれどこのまま隊員達を放っておいたとして、自然に事態が収束しないことは分かっている。

どうしたものかと、こういった揉め事には相当なキャリアを持っていそうな目の前の卯の花を半ば羨ましく見つめた。







「またお茶をしましょうね。」

「うん。」



にこやかに送り出す卯の花へ手を振り返し、葵は隊室へ戻ることを選んだ。
ただ、隊員達の頭が冷えたかはほとんど運頼みになっている。



「葵様だから、というのは確かにあるのかもしれません。
元々が葵様のでしたら、隊員達の欲しさにも拍車がかかるでしょう。」

「そういうものですか?」

「そういうものです。
好きな人の物であったり、その人とお揃いであるのは精神力の支えになると仰っていましたし。」



そうでしたね、とため息になりかけの小さな息を吐く。



「…ところで、殺那の義魂丸は何だったんですか?」

「ああ、俺はあの骸骨のですよ。」

「卯の花と同じの?」

「はい。
まあ俺は義魂丸でありさえすればどれでも良いのですが…」

「……それは本当ですか。」

「え?」







――――――…



「あ!隊長が戻ってきた!」

「お帰りなさい隊長!チャッピー!」



案の定隊室に入った途端に群がられた二人。
チャッピーの魔力は全く隊員達の頭に冷静さを落としてはくれなかったらしい。

しかし。



「すみません、チャッピーは交換してしまいました。」

「ええ!?」

「誰とですか!?」

「俺だ。」



え、という口の形のまま表情が固まった隊員達の前で、殺那が懐からそのウサギを取り出して見せた。



「「「……似合わな!!」」」

「黙れ。」



手元のチャッピーと殺那の顔を何度も交互に見つめている隊員達へ、殺那がなるべく恐ろしく口を笑わせた。



「さて、俺は義魂丸の見た目には拘らないから誰とでも交換してやる。
但し交換条件は俺を打ち負かすことだ。」



無理の二文字を顔に浮かべ、皆こぞって首を横へ振り回した。
分かったら二度と葵様の手を煩わせるな、とまた偉く凄まれ、今度は縦に首を振り回した。



「ありがとうございます殺那。」

「いえ、お礼を申し上げるのはこちらで…」

「え?」

「いえ何でもありません。
チャッピーは似合っていると思いますよ、副ちゃん。」

「ありが…いえやめて下さい。」

「善処します。」





持っている相手が葵故に隊員達が甘えたなら、最初から甘えられないような存在と交換すれば良かったことを卯の花から知り得た二人。
多少未練の声は聞こえるけれど、ほとんど諦めがついたらしいので密かに胸をなで下ろした。



 

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