夜。

一人きりで眠ることには慣れてきたが、眠る前にポツンと広い部屋に布団を敷くと、何だか孤独さが強く感じられて嫌だった。
送る宛てのない手紙は宛先も書けずに部屋の隅に積まさっていく。

それらを横目に見ながら、二人からの手紙を読むというよく眠るための日課をこなそうと布団に入ったとき。
ちら、と薄い月明かりが指しているのに気づき、いつ引き戸を開けたのか不思議に思いながらそちらを見ると。





「……あの」

「……」

「…いつからいらしたんですか?」

「さっき」



引き戸を開け放した先の縁側。
いつの間にかそこに隊長が座り込んでいた。

葵が全く気配を感じなかった自分を諫めている間にも、当の本人はゆうゆうと外を見ている。
確かに布団を敷いた時はいなかったはずなのに。




「私ここから見ている外が好きなの」

「…星、綺麗ですしね」



色々と言いたいことはあるのだが、とりあえず引き戸を開け放しても寒くない季節でよかったと思い変えた。
相変わらず行動が読めないこの隊長はそんな葵の困惑も気にしていないらしい。

このまま寝てもいいのか迷っているうち、静かに向こうが口を開いた。





「八十番地区から来たって」

「あ…はい」

「私と同じ」



そうなんですか、と答える前に目が見開く。

八十番地区から来た。

ただそれだけの言葉が持つ意味を、少なからず自分は知っていたから。
そこに生れついただけで外の世界へ踏み出すことは許されない、檻のない牢獄。


その地区から出たという存在を、葵は未だ自分以外では知らなかった。



「どこの八十番」

「…北です」

「そう、私は南。じゃああなたの次の隊長は……」





東か、西ね。





その夜のしじまに溶けていきそうなほどか細いつぶやきを理解したとき、葵の背筋を空恐ろしいほど不吉な何かが駆け巡っていくのを感じた。

何か、自分は今とてつもなく大きく、黒い事実を知ってしまったような気がした。


外を眺め続けている背中から目が離せない葵へ振り返ることなど毛頭せずに、隊長は口を動かし続けた。


 

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