「やはり、腕の動きなどで怪我をしていることが分かるんですか」

「大抵はね。でもあなたは自然に動いていたから正直分からなかったわ」

「え?」



ぴくりと差し出していた腕が動いてしまった葵へ、卯ノ花が申し訳なさそうな声色で答えた。



「ごめんなさい、嘘をついてしまって。あなたに話しかけるきっかけが欲しかったけれど、見つからなかったから…本当に怪我をしていたのは良かったことなのか悪かったことなのか分からないわね」





なぜそんなことを卯ノ花がしたのか、純粋に葵には分からなかった。
あの時の卯ノ花から見れば、自分はただの隊員にまぎれているだけの子供にしか映らなかったはずだ。



「…どうして、私と話をしたいと?」



尋ねると、卯ノ花はかがみながらも空いている左手で葵の頭を撫でた。
今日の総隊長と同じように。

そうしてまた、包み込むように微笑む。







「あの時のあなたは、泣いてしまいそうだったから」







ずきん、と体のどこかが音をたてて痛んだ。
目をやった先の腕の傷はほとんど治ってきているのに、裂けたときよりもずっと鮮明な痛みが駆け抜けていった。

けれどその痛みは、何か懐かしくて、温かいものをつれている。





「…あなたのこと、葵と呼んでも、良いかしら」



不意に卯ノ花が発した言葉は流魂街に置いてきた二人以外に呼ばれることのなかった名前。
それに迷いなくうなずいたのは、尋ねる彼女の声色がどこか遠慮勝ちで、不安そうだったから。

こんなことを誰かに告げることに、自分と同じくらい慣れていないのだとわかったから。




「…隊長は…」

「呼び捨てでいいわ、その方が嬉しい」



嬉しい。

それなら。





「……卯ノ、花」



それがこの場所で初めて呼んだ誰かの名前。



 

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