ただ、この間は目を離した隙にどこかから持って来たトウモロコシをかじっていたらしいから、もしかしたら食べ物なら何でも良いのかもしれない。

とりあえず隣に座ったまま一緒に雨を眺める。


その内、隊長も葵の存在に気づいたのか手元にある菓子を一つよこした。



「…良いんですか?」



隊長はしばらく無言で葵を見つめていたが、そのまま何も言わずまた外を眺め出した。
貰って良いものと判断してお礼を言う。

しかし、食べようにもあまりにひよこな形をしているのでどう食べたものかと一瞬悩む。


ふと何気なく横を見ると、隊長が何の躊躇いもなく頭からももももと食べていた。

それがなぜだかどうにもやりきれないので頭でも尻尾でもない下の方から食べた。





「……」

「……」



話しもせずに菓子を咀嚼する。
その合間に盗み見た隊長の横顔はどこか憂いを帯びながらも綺麗で、こんなにも雨の日が似合う存在を葵は見たことがなかった。

ただその顔から感情だけが抜け落ちている。


自分と同じでも、どこか違う感情の抜け方。
そのせいで何を考えているかは、なるほど到底分かるものではない。

副隊長がよく外を眺めている隊長の隣に座って話しているのを見ていたが、あれは凄い技術だと思わずにはいられなかった。



そんなことを考えている内に隊長はひよこを三つ食べ終えていた。

会話の合間の沈黙は嫌いではないが、今はこの人を理解するのが先だと腹を決める。



「…あの、」



お菓子がーと話しかけようとした瞬間、もう一つ葵の手にひよこが手渡された。

何というタイミングで渡してくるのだと不意討ちに固まっている間に、隊長は更に一つひよこを食べ終わった。


しかしこれで確信が持てたのでさっきの質問が幾分聞きやすくなったかも知れない。




「隊長はこのお菓子が好きなんですね」


「そんなに好きじゃない」


「…………」







この人のことを理解するのはかなり遠い日のことになるのではないかと、心配せずにはいられない葵だった。






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(あの隊長、頭から食べるのは…)
(もぐもぐ)

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