次の日。


迎えた朝は、昨日の朝とまるで違っていた。
視界が澄んでいる。

それはこの場所のことを少し理解したからだろうか、馴染んできたからだろうか。

それは分からないが、少なくとも昨日よりはずっと身近に感じられた。




もっとよくこの世界のことを知ろう。

そうすればもう少し身近に思えるかも知れない。





「おはようございます」

「あ、おはよう葵ちゃん」

「おはよー次期隊長」



朝から朗らかな隊員に混ざって副隊長の朝礼を聞いた。
今日は零番隊で仕事を覚える日だ。

見ている中で多少は覚えたので、今までよりは良く動ける。



一人の隊員の書類を運んでいた時、副隊長が後ろからポンポン頭を撫でた。
振り返ると、いつもの心からの優しい笑みを浮かべている顔があった。



「おはようございます副隊長」

「うんお早う。今日は朝から何だか目付きが違うね」

「…そうですか」

「そうだね。何か考えを持って動いている目な気がするよ」



さすが、と口の形が動きかけた。
声には出さないが、やはりこの副隊長の読みは鋭い。

いつも相手の僅かな動きで指示を出していたのを見たから、そういう分野に長けているのだろう。





「…世界を…」

「ん?」

「…この世界を知りたいんです。出来るだけ早く」



葵がそう答えた時だけ少し驚いたような口元になったが、今度はいつもよりもっと顔をほころばせた。



「それは良いことだね、不安なことが無くなる。じゃあ隊長のことも知らないと」

「…隊長?」



そう、と副隊長は隊室の隅を指差す。
その先で隊長がひさしを開けて外の雨を眺めながら菓子を食べていた。

そんなに日にちは開いていないはずだが、どことなく久しくぶりに感じる。



「我々の一番身近な『世界』は隊長だからね。よく理解してごらん」



返事をする前に小さく背中を押されて、そのままの勢いで歩き出した。
思えばろくな会話も成立したことの無い相手、戸惑うのは当然だ。

少しずつ近づいていることに隊長は気づいていないらしい。

変わらず菓子を食べ続けている彼女の隣に座る。



隊長がひよこの形をしたまんじゅうに似た物を食べているのを見て、現世に行った隊員のお土産なのだろうと分かった。

任務が終わるたびに誰か隊員が隊長にお土産を渡すのだと雑談の時に四席が話してくれたことを思い出して、菓子好きなのかと推測する。



 

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