「…この道は楽ではないじゃろう、お主を巻き込んでしまってすまぬ。じゃが今だけは全てを飲み込んでほしい。今の零番隊隊長が認めたのはお主だけなのじゃ」



その言葉に、葵は頷くのを繰り返した。
しかしその目はしっかりと元柳斉の目を見つめたままだった。

覚悟ならばとうにある、そう叫んでいるようにも見えた。





到底子供としか言えない体。

一体その小さな中に、どれだけのものを抱えてこの場所までやってきたのか。


それが分かるから、元柳斎もそれ以上の問いはかけなかった。



「ならば早速指導に入るとするかの。お主は短期間で山ほどのことを知らねばならんからの」

「はい。ご指導お願いします」







そうして葵の毎日を埋めていくもう一つの仕事が始まった。
欠片も知らないこの世界のことを、少しずつ学ぶことだ。

葵の想像に反して指導は机上で行うものが多く、し慣れていない正座がたびたび足にこたえた。


元柳斎は決して教わるときに正座以外の座り方を許さなかったし、葵自身も許さなかったので、夜中部屋で眠りにつくときはさすがに足が痛かった。



(…今日は誰も来ないかな)



ひっそりと布団から起き上がり昨日と同じように手紙を読む。

何回も読み直せるほどの長さでは無いのに、葵は何度も何度も飽きることなく読み返した。


そうして手紙を畳んだ後、部屋の隅に置いてもらった小さな机の前に座る。
少しだけ足を庇いながら。

簡易的な墨と筆を持つ。




『二人へ
今日私はこの世界のことをたくさん学びました。虚のことも、死神のことも、これから知っていくと思います』



出さないつもりで相手を思いながら書いた物は、手紙と呼ぶことが出来るのだろうか。

いやきっと違う。



出せないことが分かっているから、書けるんだ。





『私の体のことも知りました。霊圧や霊力というものが流れているのだと知りました。この体はこの場所では普通なのだそうです。自分の体が何なのか分からないのは苦しいものですね』





苦しいものですね





ぽつりと呟いたその一言に、全ての思いが詰まっていた。

そのまま筆と書きかけの紙をしまい、すぐさま布団の中へ戻る。


早く一人の夜に慣れてしまいたいと思った。



 

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