「葵ちゃーんっ!」
部屋へ入ったや否やばふっと膝へ飛び込んで来たやちるの感触を受け止め、十一番隊の洗礼を受ける。
とりあえずよじ登ってくる体をそのままに挨拶をすれば、威勢の良い野太い挨拶が大量に返って来た。
「誰かと思えば女神隊長様じゃないか。
お久しぶり。」
「どなたのあだ名ですかそれ。」
そう言いながらも弓親は剣八を引っ張って来てくれた。
大方予想はしていたが、十一番隊で義魂丸といった単語が飛び交っている様子はない。
「心底安堵していますね殺那。」
「ええ、良かったです…」
「葵ちゃん達今日はどうしたの?」
「何かの使いか?」
「実は義魂丸で一騒動ありまして、少しお邪魔してもよろしいですか。」
「わーい!
つるりんお茶!」
「へーへー。」
何の気なしにもてなすということが十一番隊はとても上手いと葵は思う。
いつの間にか隊員達の間に座って雑談に巻き込まれている自分を見る度。
「つるりんお茶おかわり!
副ちゃんのも!」
「へーへー、湯のみ持って来て下さいよー。」
「副ちゃんというのは俺のことですか。」
「そのようですよ殺那。」
お茶を取りにやちるが席を離れた時、向こうが承諾されればの話ですが、と小さく殺那が葵へ耳打ちした。
「例のウサギの義魂丸、草鹿副隊長と交換してはいかがですか。
同じ物を持っている可能性は限りなく低いでしょう。」
確かに今自分の手元にこれがあるのが元凶で、大勢の部下が欲しがるというのが逃げ出した動機だ。
それならば手元から離してしまえば良い。
「確かにやちるさんでしたら周りの人が無理に欲しがったりもしないでしょうし…」
「やちるがどうかしたのー?」
「いえ。
やちるさん、義魂丸はもう支給されましたか?」
「されたよ!」
持ち帰ったお茶を殺那に渡し、袖の中から一本取り出して嬉しそうに見せた。
「ほらお猿さん!」
「ああ、確かブルースという…」
「剣ちゃんもつるりんもみんなみんなお猿さんなんだよ!」
「ん?」
何事かと聞き返した殺那と、まさかと思い当たる節のある葵。
「ソウルキャンディーっつうのに変わったからどんな見た目かと思ったらゴリラだしなあ。」
「他の奴らは色んな動物持ってたがありゃ何だ?」
「隊ごとに動物が別とかじゃねーの?」
「え?
皆ゴリラなんだと思ってたぜ。
違うのか?」
「葵ちゃんの隊は何だったの?」
「…………まだ支給されていないんですよ。」
「そっかあ、楽しみだねー。」
秘密が露呈する前に早くここを立ち去ろうと固く決意した二人だった。
[ 41/67 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]