どこまでも広い流魂街で、あの二人はどうしているだろう。
どれだけさよならを言ったあの時を思い出しても、吹っ切ることも心配をやめることも出来ない。
むくりと起き上がって、頭の上に置いてあった畳んである隊服から二枚の手紙を取り出す。
ここへ来る前に乱菊とギンからもらった、ただ一つの二人の欠片。
しばらくはそれを月明かりの下で眺めていたが、遠慮がちに部屋の襖が叩かれたのに気づいてすぐにそれを隠した。
「…どなたですか?」
もう人は寝静まった時間帯、少なからず警戒して尋ねると、昼間に聞き慣れた声が小さく帰ってきた。
「遅くにごめんね。私よ、四席」
その言葉にあの快活な姿を思い出していると、向こうから襖を開けて入って来た。
「初めての夜だから寝つけないでいると思ったのよ。一緒に寝ても良いかしら?」
そう言った四席の姿は葵と同じ白い寝間着用の着物だった。
状況を整理している葵の前で、四席は外へ続いている障子の方へ布団を敷いた。
「誰かと寝るのなんて久しぶりだわ。明るい夜で良かった」
「そうですね……そう言えば、まだお名前を」
その先を言おうとした葵へ、四席は小さく首を横に振った。
その動作に全く強制力はなかったが葵は自主的に口を閉じる。
「私たちの名前はあなたに教えないことになってるの。解散後は四十六室に入る人もいるから、隊長格になる葵ちゃんにそれを知られるのは困るのよ」
四十六室という単語や隊長格の存在が当然葵には飲み込めなかったが、ここはそれを受け入れるしかない。
真意を確かめる方法を持ってはいないから。
「…分かりました。では四席と呼んだ方が良いですか?」
「そうね、皆席で良いわ。他に聞きたいこととかあるかしら」
「はい」
「何?」
「見張りですか?」
その言葉に、夜空を見て葵に背を向けていた四席の体の動きが止まった。
まだ子供の自分、慣れない場所へ来れば人恋しくなるだろうと周りに思われるのは分かっていた。
逃げないように監視が来たとしても何もおかしくはない。
「…そこまで分かってるなら私の来る必要はなかったかしらね」
四席は思いの外あっさりとそう答えて、すまなそうに笑いながら振り返った。
その顔に悪意は無かった。
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