「殺那のおかげできちんと締めくくりが出来ました。ありがとうございます」

「…俺に出来るのはもうこれくらいしかありませんから。あいつらのお目付役というのも、もう免除です」

「そうですね…空も七猫も、形はどうであれ手元を離れましたし」

「甘えて人は自立する、と言いますから。そろそろそうしてくれなくてはこちらの身が……」

「ふふ」



賑やかな喧騒を聞きながら、殺那の言葉を何度か反芻させる。



「甘えて自立…ですか。良い言葉だと思います」

「はい。あいつらもかなり葵様に甘えましたから、そろそろ自立してくれるでしょう」



そうですねえ、と頷いて見せてから、何気なく体ごと殺那の方へ向いた。



「ですがそこはやはり、不平等だと思います」

「え?」



その声と同時に目を開いた時には、殺那の体は何か暖かいものの中にあった。
自分の頭に回る手の存在に気づいて、初めて理解する。

抱き寄せられていることに。



「!!!
葵さっ…何を…!」



体を離そうにもどこに触れれば良いのか分からない。
顔をその肩に押しつけられているので、声もくぐもる。

けれどその肌の温度はどこまでも鮮明に伝わった。





「殺那はたくさん空や七猫を甘えさせてくれましたね」

「!
…当然、です。俺は副隊長ですから」

「じゃあ殺那は誰に甘えるんです?」

「……葵様は、」

「私はギンと乱菊がいます。それはもう、甘えさせてもらっていますよ」



頭と背中に置かれた手が暖かい。
自分の顔が燃えそうに熱いことはもう知らないふりをしようと決めた。



「…それならもう、癖でしょう。甘えさせてもらうというのは、もう俺にとってずっと難しいことになってしまったんです」

「そうでしょうか?」



静かに葵が笑う声が聞こえた。





「初めて会った時のあなたは、とても生意気でわがままでしたよ」





「……うまく出来ていましたか?」

「ええ、とても上出来でした」



ちゃんと甘えていました、と呟かれ、自分の顔の筋肉が緩むのを感じた。
どうしてこんなにも全てを見透かされてしまうんだろう。



「今度、一緒に迷子にでもなりましょうか」

「はは、誰が迎えに来てくれるんですか」

「たまにはあの子達に迎えに来てもらいましょう、こちらの気持ちも分かってもらわないと」

「……それは良いですね」



例えどれだけ時間が経ったとしても、どれだけ遠い所へ行ったりしても、自分の上にいてくれる存在があるというだけで、もう。
もう十分。





「…いつまで、こうして下さるんですか」

「好きなだけしていますよ。お話でもしながら」

「何を話しましょう」

「そうですね……殺那は、『恋』からどの季節を連想しますか?」

「秋ですよ」

「早いですね」

「秋です」

「二回も言うんですね」

「…じゃあ、次は俺の質問で…」

「はいはい」

「えーっと…」



こうして静かにゆっくりと、時間と月は傾いていった。





Fin.

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