(空ー、どこです空ー)

(あ!葵様あああああ!)

(何だって竹やぶまで道を間違えるんだお前は……)

(殺ちゃんもいる!ごめんなさいごめんなさいいい…)

(空が無事ならいいんですよ)

(だからもう葵様から離れろ、苦しそうにしておられるだろ)

(もうどちらにしようかなで道を選んだりしません…!)

(人の話を聞け)





「俺が葵様と出会ったのが秋で、空が来たのが冬ですから…雪の中を探しに行きましたね」

「足跡があったのでまだ楽でしたね」

「本当に」



それでも葵は空が自分から何かをする意欲が戻って来たことを本当に喜んでいたし、それが例え自分で道を選ぶということだけだとしても、迷子の空を共に探しに行くことを殺那はやめなかった。
単純に嬉しかった。
共に何か一つのことを行えることが。

七猫を止めることだってそうだ。
真剣な事態だと理解はしていたが、いつだってその根底にはそんな考えが積もっていた。



「その後春に七猫が来て……ああそう言えば、殺那が七猫を受け入れてくれたことが昔は意外でしたね」

「葵様が見つけた存在なら間違いなどないでしょう」

「けれど、根気よくしつけてくれましたよ。殺那は」



ふとその当時を思い出し、そうして微かに笑った。



「ああ、あいつが少し…劫と似ていたからでしょうね」

「弟さんですか」

「はい。マイペースで生意気でわがままで、そのくせ誰かにはべたべたで…何だか懐かしかったんでしょう」



つい口うるさくしつけてしまった、と認めた。
叱り役に徹してくれた殺那の存在はすごく有り難かったし、感謝していると告げると微かに笑った。

もう地下のだいぶ中心まで来ていた。





「……俺は思うんですよ」



ぽつり、おもむろに呟いた。
思わず葵が顔を上げるも、前を歩いているためその顔は分からない。



「人間は、安心できる材料があるから道を外れられると思うんです。ちゃんと聞いてくれる相手がいるから生意気にもわがままにもなる。迎えに来てくれる存在がいるから、道に迷っていける」





「俺はどちらもよく分からないんです」





わがままを通したいと思う気持ちも、地図も確認せずどれにしようかなで道を選べる気持ちも。

多少道を外れた行い。
誉められるものではないのに、なぜか薄く輝いてさえ見える。

自分にそんなことが出来た試しはないから。





「殺那、あなたは……」

「…あ!葵様、七猫がいました」

「え、……っわ」



殺那が一つの突き当たりを手のひらの赤火砲で照らした直後、弾丸のような速さで葵の胸元に飛び込んできた塊があった。
その頭に手をやると、ぐりぐり顔をこちらへ押しつけてくる。

七猫だ。


 

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