乱菊達と別れ、その姿が廊下の先に消えるや否や、二人は早足で来た方向を戻り始めた。



「どうにか悟られはしなかったようですね葵様」

「ええ、幸いです。地下までの案内をお願いします」

「はい。俺達も穴へ落ちるのが最短ですが、着地点が非常に狭いので我が邸の地下から行きましょう」



殺那に続く形で地下へ向かうための階段が構えられた部屋へ入る。
細く繊細な木の階段は、下へ下へとその口に含んだ闇を濃くしていた。



「やはり地下は暗いんですね」

「そればかりは…狭く暗いとなれば悪条件が重なります」



急ぎましょう、とためらいなく地下へ下りていった。
そこはひんやりと湿り気を帯びながら、どこからか冷たい風を運んでいた。
温度が低いことも悪条件だ、と葵は歯がゆい思いをする。



「申し訳ありません、屋敷の仕掛けを全て除いておくべきでした」

「乱菊さん達に悟られなかっただけで十分ではないですか。空も取り乱すでしょうから……七猫に発作の可能性があると知られては」



暗く、狭く、冷たい夢の淵。
それが最も心を締め付けられる芳しくない要素。
隊室でさえ起こしていた例の発作、このような悪い環境に取り残されればいつ起きるか分からない。

長い間見慣れていた殺那も葵同様、七猫の異変に敏感だった。





「赤火砲」



不意に前を歩く殺那が鬼道で灯りを確保し、暗闇だけの地下がどうにか薄らぐ。
この場所はどうにも迷路上になっているらしく、決して離れないようにとの言葉をかけられた。

葵が七猫の霊圧を感じ取り、殺那がそこへたどり着くまでの最短の道を探す役割分担をしてなるべく早く進むことを心がける。



「七猫ー、いますかー」

「いたら声の方に来い」



向こうからも近づいて来てくれればとも思うが、眠っていればそれも難しいだろう。
少なくとも目覚めるまでは安定しているのだろうし。



「近づいてはいますから大丈夫でしょう」

「はい。……ああ、何となく昔を思い出しますね」

「何がです?」

「空が零番隊に来たばかりの頃にしょっちゅう迷子になったんで、俺と葵様でいつも探しに行きました」

「ああ、そうでしたね。なぜか隊室に来る途中で流魂街まで迷いに行きましたから、空は」

「はい……」


 

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