恐らくこういった場所には屋敷の者がいるはずなのだが見当たらず、扉を叩いても大きさのあまり音も立たない。

呼び鈴などもついていないので、とりあえず空と乱菊が。



「「頼もー!」」

「ああ、きっとやると思いました」

「道場破りかい」



冷静なつっこみを受けている間に、全員の前で地響きがするほどの轟音が響いた。
扉のかんぬきを外した音らしい、鉄製の扉がゆっくりと内側へ開きだす。



「ああ、ようこそいらっしゃいました葵様」



観音開きに開いた扉の間に生まれた隙間から殺那の瞳が見えた。
直後その頭上に巨大な手が割り込み、一気に門の全てを引き広げる。

全て開き切った扉の向こうで、檻神家の着物を纏う殺那が立っていた。





「お手をわずらわせてすみません、今ちょうど門番が出払っていたところで」

「ずいぶん大きな門やなあ」

「俺の家系にはかなり巨大な奴もいますから、いつのまにかこんなに大きくなりまして……」



殺那が葵達のほかに空の存在を認識した後、眠たいながらに七猫も立っているのを見て多少驚いていた。



「お邪魔します殺ちゃん!」

「お前はまだ屋敷に入っていないだろう」

「……寝ていい?」

「何しに来たんだ」

「酒!酒はあるの!?」

「ちゃんと用意してありますよ松本様」



ギンが乱菊の頭を引っぱたいたあたりで、殺那がわずかにほほ笑みながら門の中に招き入れた。
ぞろぞろと横に広がりながら手入れの行き届いた庭を突っ切って行く。

最中、あちこちから威勢の良い叫びや轟音が響いていた。



「ずいぶん賑やかやねえ」

「すみません、どいつも血気が盛んで…来客があるから静かにするようには言ったんですが」

「まあ檻神家って言ったら十一番隊気質で有名だものね」



さして気にしない一行がようやく長い庭を抜けて屋敷に上がりかけた時、その奥からひょいと短髪の少年が顔を出した。





「おー、兄貴客人来たの?」

「ああ、ちゃんと挨拶をしないか」



無邪気な笑顔のまま、殺那と同じようにはまっている赤い目をキョロキョロさせた。
幾らかは若いにしろ、そこにはきちんと殺那の面影がある。



「あ!殺ちゃんの弟さん!」

「そうだ。紹介が遅れました葵様、弟の劫(こう)です」

「初めまして」

「うっわ…兄貴こんな綺麗な人と仕事してんの。俺も早く隊室仕えしてー」

「ちゃんと挨拶を返せ。全く…」

「副隊長さんと中身は全然似てへんなあ」

「でもやんちゃそうで良いわねえ。お姉さんと遊んでみる?なーんて…」



そう言った途端、ボンっと劫の顔が真っ赤になった。



(ああ、案外照れ屋なのね…)

(殺ちゃんそっくりだなー)

(相手が変わっただけやったか…若いなあ)



 

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