【七夕シリーズ】







その日の夜、ギンと乱菊がやってきた零番隊の隊室の縁側に、一本の笹が立てられていた。



「葵、何これ?七夕の笹なら瀞霊廷の中央に飾ってあるじゃない」

「ああ、あれは隊内安全や隊員の健康を願ったものでしょう。これはもっと個人的な願い事を書くんですよ」

「つまりは私欲用の笹やな」

「言い方があれですが…そうですね」



もう笹には何枚も短冊がぶら下がっていた。
一人につき何枚書いても良いらしく、端から見てもとても十人分の量ではない。



「あ、これ空のよね。見ても良いの?」

「はい。見てもらうためにありますから」

「?
変わってるわね」



そう言いながらその桃色の短冊を軽く引っ張った。



「えーと、『猫ちゃんの前髪の中が見れますように』ですって。まだ狙ってんのねーあの子」

「そんならこの『断る』ってだけ書いてあるんは四席君のやな」

「何短冊で会話してんのよあの子ら」



その他にも欲しい物や起きて欲しいこと、どの隊員も本人らしい願いを書いていた。
そんな中から、ギンが青い短冊に目を止めた。



「お、この青いのは副隊長さんやな」

「はい」

「えーと…『空が少しでも大人しくなりますように』ですって。これは天の川もプレッシャーねー」

「それはそうと葵、短冊の色偏ってへん?やたら青い短冊多いなあ」

「ああ、隊員で一人ひとり短冊の色を変えてるんですよ」





と言うことは。





「…青ッ!うわ青ッ!願い事書きすぎやろ副隊長さん!」

「しかもほとんど空と七猫に関する事だわこれ……」

「『もう天に託すほかありません』と無心に書いていましたからね…」

「大変やなあ…叶わんと思うけどな、僕」

「言っちゃいましたね」



とにかくこのままではあまりに笹が別の意味で青々としているので、ギンと乱菊も短冊を書くことにした。



「余った短冊が金と銀と白とはね…とりあえず葵は白一択で。やっぱりギンは銀ね、はい」

「えっらい書きづらいわ…」



ツルツルした金銀短冊に苦戦しながらも、縁側に腰を下ろして思い思いに願い事を考える。
満天の星空の下、一足先にサラサラと書き出したのはやはり葵だった。



「葵何て書いたの?」

「『家内安全』です」

「激渋やな」



葵が笹の目立たない所へ飾っている間、尚も考える煩悩多い組。



「『天の川を全部酒に変えてここに降り注いで欲しい』とか」

「何ちゅう世界の終わりや」

「じゃああんたは何なのよ」

「せやなあ、思うだけで人を消せる力が欲しいわ」

「ちょ、あんた速攻で世界中の人消すじゃないのよ」

「葵は消さんで」

「なら良いわ」

「えええ……」



それからずっと、ああでもないこうでもないとたった一枚の短冊相手に苦悩していた。
そんな様子を微笑ましく思いながら二人の間に座っている葵と共に、賑やかな談笑の中でゆっくりと夜が更けていった。




Fin.
(『ギンが開眼しますように』っと)
(『お断りや』っと)
(同じじゃないですか)

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