【零番隊のホワイトデー】
朝、出隊時刻が迫る時間帯にすでに隊室へ来ていた殺那の伝令神機が鳴った。
ピッ
「俺だ」
『殺ちゃん司令塔!本日も例年通り被害にあっている葵様を発見しました!』
「よし、お助けしろ。随時報告を忘れるな」
『イエッサー!』
普段流してしまうような空の発言へ殺那が真面目に返しているのは、この団体行動が遥か昔の零番隊の頃から行われていたから。
『殺ちゃん司令塔!例の物に埋もれた葵様を発見!松本様達と救出しました!』
「よし、お体の無事を確認しろ。隊員をそちらにやるからそれを全て隊室に運べ」
『ラジャー!あと数十秒程で到着します!』
数十秒後。
よろけながら何とか葵がギンと乱菊と共に出隊した。
「殺ちゃん司令塔、只今帰りました!葵様と例の物を搬入します!」
「ご苦労、例の物はどうだ七猫」
「ん、火薬の匂いはしない。血っぽい物も入ってない」
「よし!各隊員それぞれ開封!」
「「「はい!」」」
「…オーバーですねぇ…」
本日は三月十四日、いわゆるホワイトデー。
別名「葵殺しの日」。
特に男性が必ず女性にお菓子を贈らなければいけない行事では無いのに、不思議なくらいにこの日になると葵の存在がかき消える程のお菓子が届く。
もちろん届けられた際の量が多くて下敷きになったり、中に不審な物が入っていたりすれば大変なので今まで殺那達が行った一連の流れは理解出来るのだけど。
「毎年思うんですが、ここまで盛大にやらなくても良いでしょう。乱菊さんが後ろで笑いころげています」
「あ、本当ですねー。『檻神ノリノリじゃないの、ヒーッヒッヒ』って引き笑いしてます」
「…まあ、葵様に何かあってからでは遅いのです。多少力も入ります」
「その心意気は嬉しいんですけどね、殺那…」
殺那とは逆に何だか楽しそうに積まれた菓子を開封して行く隊員達の姿が何だか印象的だ。
来年からは貰った後ではなく、いかにして貰わないかを考えてみようかと思いつつも。
このホワイトデーのドタバタを楽しんでいる隊員の方が大切なので、特に言い出したりはしない葵だった。
「…で、どうするのよ。このバレンタインの檻神をしのぐ程のお菓子の山は」
「……当分のご飯ですね」
「二桁までなら付き合うで、僕のバレンタインチョコ消費してもらった恩もあるしな」
「ありがとうございます……」
fin.
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