【零番隊のバレンタイン】





「おはようございま…」

「おはようございます葵様!」



今朝は一段と元気な空が葵の前まで走ってきた。
隊の中がどことなく甘い匂いになっていることに気づいてカレンダーを見ると、ああ、と納得する。



「今日はバレンタインですか」

「大当たりです!はい葵様!」



待ってましたとばかりに葵にチョコを手渡した。
葵が礼を言ってそれを受け取った瞬間。



「隊長、私からもどうぞ!」

「あ!私もあります!」

「私もー!」



続々と隊内の女子隊員達がこちらにチョコを手渡しに来る。
例年のことと言うのもあり、何とか全て受け取った。



「お疲れ葵」

「まだ始まったばかりですよ、七猫…」



無事自分の机までチョコを運び、やれやれとどうにか席につく。
すでに小山になったチョコを眺めてから辺りを見渡すと、自分の副隊長の姿がないことに気づいた。



「葵様、殺ちゃん寝坊ですかね?」

「いえ、多分殺那のことですからー…」


バタンッ


言葉の先を消すように勢いよく扉が開いた。
そこにいたのは当の殺那。
ただ、いつもと違うのは。





「助けて、くださ…」





腕に今にも落としそうな程のチョコを抱えていること。



「今年ももらいましたねえ…」

「殺ちゃん!空の特大チョコ受け取って!」

「お前は嫌がらせかっ!」

「もちろん!重量のことだけを考えて作ったんだよ!」



味の保証はしないという、葵へあげたのとは正反対なチョコを渡そうと巨大なソレを持ち上げる空と、必死でそれより先に自分の机へたどり着いた殺那。

性別がこの行事に当てはまっているからなのか副隊長という場所が渡しやすいのか、この日に一番の労力を使うのは殺那だった。



「よく出隊までの時間にこれだけもらいましたね」

「例年のごとく待ち伏せされていました…」



端麗な容姿と貴族の家柄を持っているためにこの日は災難と言うしかない。
しかもピークは休憩時間の昼頃。
朝の数倍は見込まれる。



「葵様はホワイトデーが凄いですよねー」

「ここまで現世の遊びが入ってくるのも少し怖いですけどね。私はまだゆっくり食べきれますが、殺那はどうします?」



甘い物が得意分野という訳ではない殺那が机上の山を見やってため息をついた。



「いつもどおり…流魂街の子どもにあげてきます」

「無駄にするよりは良いでしょうね」

「ところで殺ちゃん、空の作った30sの無糖チョコはどうする!?」

「捨てろ」





Fin.
空はこの日の嫌がらせのために一年かけてカカオの使われない部分を30s集めます。

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