「おーおー、蹴っとる蹴っとる」
「すごい猛攻ですね…あれ?」
反撃していた乱菊をつかむ腕が突然数本増えた。
ひときわ叫び声の大きくなった乱菊を箱の中に引きずり込もうとしているように見える。
「…あれはさすがに危ないな」
「ええ」
そう二人が判断して乱菊に駆け寄ろうとしたとき。
箱から生えていた腕が乱菊の持っているロウソクを払い飛ばした。
「!」
ただ一つの明かりが消えて辺りが暗闇に戻る。
黒い箱の姿が闇に紛れて見えなくなったにも関わらず、そこから生える白い腕はぼやけながらもうっすらと見えた。
「きゃああああ!ってどこ触ってんのよこの腕はぁ!」
メキッ バキッ ドゴンッ
「…暗いのに乱菊さんの場所が分かる気がします」
「乱菊、こっちやこっち」
「こっちってどこよー!」
「ああもうええからそっから離れ!」
「ちょっ、腕がついてくるんだけどおおお!」
数分後。
肝だめしのゴール付近で息を切らして倒れている三人が発見された。
「ぜぇ…葵、おる…?」
「…はい、います。乱菊さんは?」
「いるわ…げほっ」
あの後どの道をどう通ったのか分からないくらいに全力疾走で黒い箱から逃げ出した末、どうにか明かりのあるゴールまでたどり着いた。
ゴールには入り口でロウソクを手渡したあのからかさお化けに扮した隊員が待っていた。
「お疲れ様でした」
「本当にお疲れ様よっ…」
何とか呼吸が元に戻って来た時、ふと最後の黒い箱から人形を持って来られなかったことを全員が思い出した。
それと同時にその内二人が青ざめる。
ルールには、三つを持って来られなかった場合取りに戻ることになっていた。
「どないする?葵」
「隠しても仕方ありませんし…言った方が良いでしょうね」
「人形取れなかった私が言うのもアレだけど、またあそこに戻るのキツいわよ…」
こっそり座り込んで作戦を立てていたとき、背後で新しい気配がした。
「何やってんだ?お前ら」
ビクッとした一同が振り返った先にいたのは、角を生やした技術開発局の隊員。
「…阿近!?」
「ああ」
しかめっ面で煙草をくわえた阿近が立っていた。
「何であんたがここにいんの?」
「開発局はどうせ暇だろうって慰安協会に目ぇ付けられててな。今回は肝だめしのほとんどを俺達が運営してんだ」
お化け作りから接客までな、という言葉を聞き逃さなかった。
「そんなら箱の中の腕も?」
「ああ、あれは自信作でな。最大十本の腕を遠隔操作で動かすことが可能だ」
さらりと答えられたそれに拍子抜けとも安心とも言えない息を吐いた乱菊。
あの浮世離れした動きはどうやら機械のせいだったらしい。
「もう、私真面目にビビったわよ!」
と笑う乱菊を見ながら、阿近が不思議そうに首を傾げる。
「それなんだが…お前らどうやってここに入ったんだ?」
「はい?」
「しばらく前に腕の仕掛けが誤作動を起こして、肝だめしは一旦中止になったはずだったんだが。看板あったろ?」
「無かったですよ…」
「そ、そうよ。それにからかさお化けの格好した隊員が説明書きとロウソクくれたもの」
それを聞いて更に首を傾げて。
「そんなの開発局にはいねぇな…」
と小さく呟いた。
「いっいないわけないじゃない!」
「いや、仮装なんて幼稚なことをやったのは壺府だけだ。あいつは赤い箱の中にいたはずで、さっき泣きながら帰ってきた。中止の連絡が行ってなかったんだろう」
それならあのギンとの遭遇で逃げていったのは、壺府リンがお化けに仮装したものだったのだろう。
だとすれば、あのからかさの隊員は?
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