「はー…こう見ると圧巻やね」

「ええ」



百何十羽とあたりをはためく蝶で、すっかり視界までも黒くなってしまった。
葵が静かに自分の部屋へ行くように促すと、蝶達は素直に散らばって飛んでいった。





「そう言えば、昔乱菊さんと市丸隊長から手紙をもらったことがありましたね」

「ああ、あったわ。どんたけ小さい頃やねんそれ」



まさか取ってあったりせえへんよな?と聞くと。
葵はもちろん、と答えて。





「取ってありますよ」

「それもそう……は!?あの、ほとんど字も書けんかった頃の手紙やで?」

「ええ、バッチリ。たとえ探されても見付からない場所にしまってあります」

「何、何書いた?あの頃の僕と乱菊何書いた?」

「そうですね、今音読すると恥ずか…微笑ましい内容ですとか」

「今絶対恥ずかしいって言おうとしたやろ…!」

「言ってませんよ。今よりはまだ素直だった市丸隊長と乱菊さんの気持ちが書かれてると言うだけです」


「十分やん!
返し!それ返し!」

「嫌です、もらったんですから私のです。ちゃんと『#name3#へ』って書かれてますし」

「平仮名!?」







乱菊とギン限定の素敵な笑顔でそういう葵に、あーもー…となかば奪取を諦めた。

どれだけ黒い三番隊隊長と恐れられても葵の頑固さには昔から勝った試しがない。




「大丈夫ですよ、誰にも見せたりしませんから」

「…捨てもせえへんやろ」

「当然です、宝物ですから」



きっぱり言い捨てられ、完全に諦めた。



「内容はいいじゃないですか。受け取った私はとても嬉しかったんですから」

「……そういう事にしといたるわ」



そんな話をし終わった頃、ちょうどたき火の火が消えた。





















一ヶ月後。


「葵ー、遊びに来たわよー」

「あ、乱菊さん。どうぞ」

「おっじゃましまーす」



いつものように乱菊が遊びに来た。
以前に大量に出た地獄蝶は読み終えた後で外へ逃がしたため、室内はいたっていつも通り。




「相変わらず何もない部屋ねー。あ、ねぇこの押し入れって何が入ってるの?」

「え?」

「いつもここは開けたことなかったわよね。見ちゃうわよー」

「あの、そこは…」


ガラッ


「ぅおぶ!?」



突如発生した白い山崩れに乱菊の姿が巻き込まれて消えた。
そんな時、遅れてやってきたギンが入り口でそんな状況を見て。






「葵お前…また貯めたんか」

「一ヶ月しか経っていないんですけどね……」



計算が合いません、と不思議そうに首を傾げている葵と、その隣に出来た小山よりも遥かに高さのある手紙の山。

もちろん、恋文。










「…この手紙押し入れん中で繁殖してるんちゃうん?」

「そうかもしれません…燃えるゴミの日、来月なんですよね」

「更に増えるわけやね……今のところ被害者は窒息死一人か」

「被害者……?あ、乱菊さん!」






静かになった手紙の山から慌てて乱菊を助けた後、葵は誰からも恋文を受け取らなくなった。

ある意味、ギンの希望通りに。







Fin.
(最後に笑うんは僕やね)
(…『ぼくは あおいのことが』)
(手紙読むなああ!)

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