「ほんっとごめん葵!寝て!寝て下さい!」

「そうさせてもらいます」



よいしょ、と布団に潜り込んだ葵に、最後の最後まで乱菊は。





「……葵、レモンの代わりにキュウリパックってのもあるんだけど」

「それ乱菊さんが試したいだけじゃないですか……」

















―――――――…


「あらら、もう寝ちゃったわ。」

「ほんまに寝とらんかったんやね。反省せえや乱菊」

「それはする、するわよ。だけどギン」

「何や?」

「あんたはサボッてて良いの?」

「…………」




今も隣の部屋かどこかでギンの分の仕事をしているだろう吉良の姿が簡単に想像できる。



「……イヅルはあれや、葵やあらへんし」

「それもそうね……にしても綺麗な寝顔、写真撮っちゃおうかしら」

「寝とる葵見るたび盗撮しようとするんはお前の悪い癖やで」

「まさか、本当に撮ったりしないわよ。現像屋に見せるのもったいないもの」









次の日。
おはようございます、といつものように挨拶をしにきた葵の頬は、一昨日と変わらない白い肌をしていた。




「おー、見事に治っとる」

「やっぱり睡眠不足だったのね……」



そう言いながらもかなり嬉しそうにぎゅーっと抱きつく乱菊。



「嬉しそうですね」

「当たり前よ。これで葵にいくらでも頬ずり出来るもの」

「…は?」

「だって私薄くだけど化粧してるし、それで頬ずりしたらニキビに悪いからずっと我慢してたのよー。これで心置きなくできるわ」



葵の首に両腕を回してスリスリ頬をすり寄せて幸せそうな表情を浮かべる。
やーんスベスベーとか恍惚に近い声をあげて。




「…あんだけ治そう治そううるさかったんは、このためかい」

「他に何があるってのよ。あ、ギンは頬ずりしちゃダメだからねっ私の専売特許!」

「何やそれ!僕かてしたいわ!」

「ダーメーよ!大の男が葵に頬ずりだなんて似合わなすぎ!」

「そういう問題やあらへんやろ!」

「そういう問題ですぅー!」



またいつものようにギャーギャー始まった喧嘩。
二人の間に正座してお茶を飲んでいる葵には慣れた日常。

本来ならば乱菊のせいで残業をしたのが原因のため、怒る権利は彼女にあるのだけど。



(心配してくれた事だし…まあ良しとしようかな)



そう思って終わりそうのない喧嘩を聞きながら、またお茶を一口飲んだ。






Fin.
心配も一種の愛情

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