「即答しなくても良いじゃないの」
「科学的に証明されてないものは避けたいです」
「私の頼みでも?」
「それとこれとは別です」
一応許容する種類の境界線は引かれている。
乱菊に「私のために死んで頂戴」などと言われれば、きっと葵は何のためらいもなく「はい」と答えるのだろうけど。
「大体レモンなんてそう簡単に手に入らないでしょう」
「諦めや」
「……分かったわよ」
ちょっとしょんぼりしながら三番隊の隊室から出ていったから、諦めて仕事にでも戻るのかと思いきや。
十番隊と反対な方向へ進んでいったことからまた葵にはピンときた。
「市丸隊長、乱菊さんが食堂でレモンをせがむ前に止めてきてください」
「分かった」
十分後。
「大勢の前で恥かいちゃったじゃないのよ!」
「それは僕の台詞や」
案の定食堂でカウンターの女の子にレモンを出すよう大声で命令していた乱菊をハリセンでしとめて引きずって帰ってきたギン。
やれやれ、と表情を変えずにため息をつく葵にむー、と不服そうな声をあげる。
「だってニキビの原因なんてたかが知れてるじゃない。清潔とか、食生活とか」
「それでどうしてレモンパックが出てくるんですか」
「清潔と食生活を混合させてみたわ」
「大失敗やね」
サラリと酷いことを言った。
「大体葵にはあんまり関係あらへんやん。清潔も食生活も問題ないし」
「じゃあ何でできたって言うのよ。あとニキビの原因は睡眠不足くらい……」
「「…睡眠不足…」」
次の瞬間ガシッとギンが葵の右肩を、乱菊が左肩を掴んだ。
「……葵、あんた最近何時間寝た?」
「三・四時間くらいですかね」
「えらい少なくないか?」
「仕事が残っていましたから」
デスクワーク処理へかなりの早さを持ち合わせている葵には珍しい言葉がでた。
滅多に残業になどならないのに。
「どうしてそんなに仕事してたのよ」
「言うんですか?」
「ったり前や」
そう言うと、心なしか少し言いずらそうにしながらも。
「…乱菊さんがサボッた分のしわ寄せが来まして…」
「元凶お前やん!」
「え…ええええ!ほん、本当!?私そんなにサボッた!?」
声に出さずただ頷くだけの葵からして、相当な量があったらしい。
サボるのはギンと言うイメージがあるけれど実際乱菊もかなりの回数葵を引き連れてサボッており。
その間乱菊の仕事と葵の仕事がダブルでたまると言う悪循環になっていたことにようやく気がついた。
「葵、布団出したるからここで寝てき。日番谷君には伝えとくから、隊長命令」
「はい……乱菊さん、そんなに気にしないでください」
さっきから無言のまま頭を下げている乱菊にそう言うと、さすがに申し訳なさそうに謝った。
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