「ああ、さっきから鳴っとる変な音あれやったんか。」

「私買ってくるわ、現世行ったら一度は食べとけって七緒に言われてるのよ。」



二人も食べるでしょ?とだけ告げて、乱菊は公園の外へ走っていった。
昔あれだけ食べたやん、というギンのつっこみに、小さく葵が笑う。
そうだ、昔は落ち葉をかき集めてよくやった。





「……そういえば、ギンはその機械に名前はつけないんですか?」

「乱菊つけとったもんあ。
せやなあ、うーん……」



と、しばらく自分の手元にあるヘリコプターの模型を触っていたが。



「…思いつかんわ。
ええんやない、ギンで。」

「自分の名前ですか。」

「うん。
僕、ずーっと空飛んでみたかったんや。
僕の刀の能力、飛行系だったらええなーって昔は思っとったし。
でも今日な、少し叶った気がする。」



現世はええな、と呟いた声を飲み込んで、葵はあえてうなずかなかった。



「楽しかったですね。」

「せやな、来てよかったわ。」

「ただいまー。
ほら見て、いも増量+お茶までもらったわよ!」

「どこまで見せたんや。」

「大丈夫よ、谷間までだから。」



あー、帰りたくないわねえと乱菊がベンチに腰を下ろした。
二人に芋を配りながらすでに一つ頬張っている。



「うわー、現世の焼き芋って甘いのね。
何かしら、品種改良?」

「本当ですね。
昔食べたのは、あまり甘くありませんでした。」

「まあその辺に生えとったやつやからね。」



でもこの喉に引っかかるような、飲み物が欲しくなるような感覚は同じだなと、三人で思った。
焼き芋を食べ終えた頃には会話も途切れ、自然と沈黙が降りたとき。

いつもと同じように、葵がベンチから腰を上げた。
いつもと同じように、日が沈む夕暮れどきに。
いつもと同じように。

二人を迎えに来たように。





「一緒に、帰りましょうか。」





そうやって小さく笑うから、二人はいつも帰らなければならなかった。
どれだけ食べ物が見つからなくても。
どれだけ二人で喧嘩をしても。
おんなじ場所に、帰ることができた。



「……はーい♪」

「仕方ないなあ、帰ろか。」



いつもと同じように、返事をして。
何となく、手を繋いでみた。









「……というわけで、現世はとても楽しかったです。」



夜、無事靜霊廷に帰ってから、零番隊の所へ顔を出した、葵。
どうやら本当に楽しかったと見える葵の様子に、殺那も喜ばしそうに頷いた。



「ご無事に戻られて何よりです。
空なんかはもう、葵様のお土産を喜びに喜んで…」

「いえ、あれはお土産では……」



「猫ちゃん!ほら!大きな魚だよー!」

「やめ、やめろ…っ、体が勝手に…!」

「おっと、ここまでおいでー。」

「っしゃー!!」



葵の持ち帰ってきたラジコンは、隊内でいたく大好評だった。



「空中に魚を浮かせる機械とは…現世には不思議なものがあるのですね。」

「…まあ、その解釈も良いでしょう。」





ギンと乱菊がそれぞれ持ち込んだラジコンも各隊で取り合いになっているということを、葵は知る由もなかった。







(私のマリー、あれから皆の順番待ちよ)
(僕のヘリはイヅルがハマってたなあ)
(私の魚は開発局に目を付けられそうでした…)

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