(聞いたらこの建物の近くに大きい公園があるらしいわ)
(皆で行こか)
「…えーと、ここに電池が4本よね?」
「はい、こっちが上で…」
三人が出てきたチェーン店の近くにあった公園は、空き地といっても差し障りないほど広く、人の手も加わっていなかった。
広い芝生の向こう側に、申し訳程度のすべりだいとブランコが見える。
手元にある不思議なおもちゃを準備しながら、先ほどのギンの言葉を、何となく乱菊は考えていた。
「久しぶりにギンから誘ったわねえ…」
「ん?何ですか?」
「ううん、何も。
っていうか電池4本ってすごい量ね。」
「乱菊のは車でしたっけ。」
「そうそう。
何かゴツいやつ―――ってギン!
もう飛ばしてんじゃないわよ!」
「テスト飛行やってー。」
その割にはずいぶん高くまで飛んでおり、日が傾いてきた空を気持ちよさそうに泳いでいた。
「…よっし、出来たわ。
さあ行くわよマリーアントワネット。」
「それはもしかしてラジコンの名前ですか。」
「もちろん、小さくても私の乗り物だもの。
…で、葵のはなんだっけ、それ。」
「魚です。」
葵の近くにはガスの入った風船のような生き物がふよふよと浮いており、これもまたラジコンの一種なのだという。
先ほどのラジコン売り場でもひときわ異彩を放っていた。
「ほんと訳わかんないわね現世って…」
「お。準備終わったん?」
「終わったけどうまく動くか……きゃ!動いた動いた!」
乱菊が手元のリモコンのバーを下げると、タイヤが二三度回転してから勢いよく走り出した。
なかなかのスピードだ。
「へえー結構爽快感あるじゃない。
あ!石に乗ったらジャンプしたわ!」
「そんなら攻撃ー。」
そう言ったとたん、ギンの操作していたヘリコプターから小さな玉が何発も発射され、乱菊の車を狙う。
「は!?
何それ、そんな機能あんの!?」
「BB弾言うらしいわ、
そーれ追撃やー。」
ヘリコプターからの連撃をタイヤに受け、乱菊の車は見事にひっくり返った。
「マリイイィィー!
あんたふざけんじゃないわよ!
スピードじゃこっちが上なんだからね!」
「そんなん上空からの攻撃には無意味や。
そらそらー。」
「どーん。」
「うわ葵の魚でか!
見えへん、マリー見えへん!」
「後ろががら空きよ!」
「何…っ!
石を利用してここまで高く跳ねたやと…!」
「くらいなさい、マリーアタック!」
「ただの体当たりやん!
あかん…僕のヘリが落ち―――」
「どーん。」
「おおきに葵!
魚がクッションになったわ!」
―――1時間後
ベンチにて体力を使い果たしている三人がいた。
「……かなり楽しかったわね。」
「いやー……白熱したな。」
「さすがは大人用のおもちゃですね…」
「また僕らのパワーバランスが絶妙やったからな。」
日は傾いてきて、うっすらと赤みを帯びてきている。
じきに日暮れだ。
そして現世でのお遊びも終わる時間。
「結局いつもどおり喋って騒いだだけだったわね。
私達らしいっちゃらしいけど。」
「でも楽しかったです。
隊内では、ここまで騒げないですからね。」
ああそうか、と乱菊は理解した。
だからギンはこの場所で遊びに誘ったのだということを。
昔はいつも空き地で遊んだ。
朝ごはんの後、食べ物を集め終わった後、新しい地区への移動途中も、いつもいつも。
「あーなんや小腹へったなあ。」
「お二人はクレープとたこ焼きだけですもんね。」
「あ、あれって焼き芋屋さんっていうやつじゃない?
乱菊が指さした方向を見ると、ゆっくりゆっくり道を走っている車があった。
車の側面には、乱菊が言ったとおりの名前が書かれている。
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