――――――フードコーナー
「ん〜、やっぱ現世の食べ物は最高ね。
あっちでもクレープ屋さんくらい出来てほしいわ。」
「乱菊、クリームついてます。」
「ええ席あって良かったなあ。」
現世のファーストフードというものが最も葵達の世界の食事とかけ離れているので、現世に来たばかりの死神はこぞってそうした食事をとりたがる。
それを知っている総隊長から「あまりあれらを食さぬように」と言われていたが、まあもちろん、守る気もなかった。
「葵のそれ何?
麺がオレンジ色なんだけど。」
「なぽりたん、という物らしいです。
トマトのような味がします。」
「……あかん、僕このたこ焼きっちゅう奴、えらい懐かしい味がする。」
「オオサカ名物とかでしょ?
あんたまた人間時代の故郷候補増えたわね。」
「僕どっちの生まれなんや…」
「オオサカ生まれキョウト育ち、とかではないですか。」
「無駄にサラブレットね。」
――――――ゲームコーナー
神妙な顔をして一つの機体の前で屈んでいる三人。
到底子どもではない姿をした者が二人いるが、周りでもそのような格好で屈んでいる人間は多く、幸いあまり目立ってはいない。
そのうち三人が注視していた機体の穴から、カシャンと一枚のシートが出てきた。
「……っよし!
何とか写ったわね、プリクラ!」
「三人で霊圧上げて実体化したかいあったなあ。」
「若干色素が薄いですが…映りましたね。」
食事後、乱菊がどうしても現世の「ぷりくら」というものをやってみたいと言い出し、三人で方法を考えた結果こうなった。
プリクラの中に書き込んだ落書きの色の方がどうしても強いが、見える程度には三人が写っている。
「いやー日本に敵がいたら即効で見つかってるくらいの霊圧だったわね。」
「周りに隊員クラスの子がおったら膝ついとったやろね。」
「プリクラの隅っこで何か呟きながら集中している乱菊さんは怖かったですけどね…」
丁寧にも近くにプリクラを切り分ける台があったので、そんな話をしながら切り分けた。
前で同じことをしていた学生が、「何かさっき肩とか重くなかった?」「わかるー超重たかったー」とか話していたのは、なるべく全員で聞き流した。
「でも嬉しいわ、このプリクラ欲しかったのよ。
ほら、私の目とかめちゃめちゃ大きくなってて面白いじゃない。」
「本当ですね…顔の三分の一くらい目ですよ。」
「僕ちょっとでも目ぇ開けてたら面白かったやろなあ。」
「そうね、一般人くらいの目の大きさにはなってたわね。」
でもギンが開眼してたらこういうこと出来ないし、と言いながらそのうちの一枚を自分の伝令神機に貼り付けた。
その姿を見て、それが本当の目的だったことを葵は理解する。
向こうの世界の写真に、これだけ小さくてシール状になっているものはない。
「さて、次はどうする?」
「あ、ギンが何か面白いコーナーを見つけたと…」
――――――おもちゃ売り場
「ちょっとギン、先に行っちゃわないでよ。」
「ん?ああ、すまんすまん。」
ゲームセンターの機体で見えなかったが、奧にはおもちゃコーナーが存在していた。
ギンがいたのは、そこの「大人用」と書かれていた場所。
「いや、おもちゃやのに大人用って何やろう思ってな。」
「ふーん、おもちゃに大人も子どももあるわけ?」
そう言いながら周りを見渡すと、ずいぶんと手の込んだプラモデルや、子ども一人であれば乗れそうなリアルな車があちこちに置かれている。
おもちゃ売り場であれば定番のキャラクター物などのカラフルな色彩があまり見当たらない。
「うわ、何これ。
自分で作るお茶組みロボットだって。
マユリんとこの隊員にあげたら喜んで魔改造しそう。」
「あ、この小さな人形、楽器を演奏してくれますよ。」
「うわー指の動きとかリアルやな、ほんまに演奏しとるみたいや。」
「ちょちょ、この円盤勝手に空飛ぶんだって!
UFOってこれだったんじゃないの!?」
徐々に白熱していく三人がやいのやいのと見ていると、その様子を見て売り場の店員がやってきた。
「最近のおもちゃは良く出来ておりますよね、お客様。」
「「うわっ!!」」
「えっ!?」
「…すみません、その二人は今店員さんに敏感なもので。」
葵のフォローを聞きながらもまだ戸惑う店員と、辺りに自分たちを映す機械がないか確認する二人。
すっかり染み付いてるなあ…と思いながら再度店員に謝罪した。
「…ところで、何かお探しですか?」
「あ、えーと…特に探してたわけではないのよ。」
「せやな、何か面白いもんでもあったらええなーと。」
「なるほど。
ではラジコンシリーズなどはいかがでしょうか?」
そうして店員が示したのは一つの企画コーナー。
紙飛行機のようなものからリアルなヘリコプターを模した物まで、あらゆる小さな乗り物が展示されている。
「これは模型ですか?」
「はい、動かせる模型です。
たとえばこのハンドルを操作しますと…」
ちょうどギンの足元にいた赤い車が走りだし、急カーブや回転を繰り出した後戻ってきた。
「このような二次元のみならず三次元的な動きまで可能になっています。」
「…え!
今あんた動かしたの!?」
「はい、誰でもこの程度の操作であれば。
どうぞお試しください。」
「…模型が勝手に走るだなんて…」
「私もそこにビビってるわ葵…」
「電池式になっていますのでお手入れも簡単ですよ。」
「電池だったら浦原のところにもあるわね…ねえギン、あんたならどれを試して――」
「そうですはい、この空飛んどるのを一つ。
あと交換用の電池も。」
「すでに買ってますよ乱菊さん…!」
「葵達はどれにするん〜?」
「決定事項!?」
「女性の方でしたらこちらのバギーの操作が簡単ですよ。」
「あんたも歪みないわね……」
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