主任と呼ばれた男が葵の方へ振り向いたや否や、かけている眼鏡の奥に潜む目がキラリと光った。



「お待たせいたしましたお客様、何をお求めでしょう。」

「あ、いえ…この機械でですね…。
パンからご飯を作ることはできないかな、と…」



自分で何を言っているのか分からなくなってきたところで、いつのまにか主任が手を握っていることに気づいた。



「それは大変興味深いテーマですね。
商品展開の主任として深く議論する必要があります、よろしければ奥の方に会議室でじっくりと考察を…」

「あーはいはいお待たせ葵ー。」

「すまんなー動く階段に心奪われとってなー。
名前なんやったっけ、サドカレーターやっけ店員さん。」

「あ、え、エスカレーターです…」

「あーほんまに、どーもなー。」

「はい行くわよー。」



さっさとつながれた手を振りほどいて回収完了。
引き止める声を無視してまた昇りのエスカレーターに乗り込んだ。



「途中で別の店員呼ばれるとは思わなかったわね。」

「すみません、私が変な質問をしてしまって…」

「いやあれは誰でも疑問に思うやろ。
それに乱菊より長く話せてたで。」

「……まさかこれ罰ゲームなんてないわよね?」

「乱菊それはフラグか?」

「くっ…!」



隙さえあればエスカレーター内でも喧嘩を起こしそうな二人を(というよりは乱菊を)なだめ、話題は自然と次の階に挑むギンのことになる。
乱菊はパソコン、葵はごパンメーカーと、難易度は軽減してきているが。



「僕は三階やな。」

「男にまるっきり縁の無い物を特集したりしてないかしら、小顔ローラーとか。」

「それは縁ないですねえ…」



そんな三人が昇りきった先で、最初に目にした家電製品は。



『特設テレビ会場』




「……ギン!何であんただけこんな馴染み深い家電なのよ!」

「えー日頃の行いちゃうん。」

「あんた隊室で見まくってんだから得意分野じゃないの!」

「……あ。」



そういえば、ここに入ってまず先にギンがしていたことを思い出す。
エスカレーターに乗るより何より先に、自分たちは各階の案内表示を見ていた。
自分と乱菊はざっと見た程度だったが、最初からこの遊びをしようと考えていたのならすべての階のメイン商品に目を通していてもおかしくない。



「乱菊、諦めましょう。
計画的犯行です。」

「こいつ…!」

「ほんなら行ってくるわー。
あー店員さん、僕新しいテレビ欲しいんやけど。」


手を振りながら歩いていくギンを見送りながら、噛み付きそうな乱菊をひきずり他の商品の影に身を隠した。
大小様々なテレビ画面がこちらに向かってあらゆるテレビ番組を映しているのでとても賑やかだ。



「あいつ見計らったように女の店員に声かけてるわね…」

「自分を有効活用してますね。」

「あぁほら、いたいけな女店員が毒牙にかかったわ。」



見ればギンに声をかけられた店員が熱心に商品の説明をしている。
参考までに葵に今までの成果を聞いてみると、乱菊が32秒、葵が2分55秒とのこと。



「案外話してないのねー…私。」

「体感的にはとても長く感じられますよね。」



一応乱菊が身に付けている時計で所要時間をカウントすることになった。
それでもギンの余裕具合から、渋い顔をせずにはいられない。



「こちらは今流行の3Dを取り入れてまして、これを付けて見ると立体的に…」



「店員さんすごく丁寧に説明してますね。」

「私も胸と足を使えば2時間くらい余裕だっつの…」

「乱菊、何と戦ってるんですか。」

「お客様、何かお探しですか?」

「「え?」」



 

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